櫻イミト

吸血鬼ボボラカの櫻イミトのレビュー・感想・評価

吸血鬼ボボラカ(1945年製作の映画)
4.0
アルノルト・ベックリンの有名な絵画『死の島』(1880)をモチーフに作られたRKOリュートン・ホラー。スコセッシ監督が選んだ映画史上最も怖いホラー映画第二位。黒沢清監督絶賛の一本。原題は「Isle of the Dead(死の島)」。「恐怖の精神病院」(1946)のマーク・ロブソン監督の第二作。

1913年バルカン戦争中のギリシャ。ある晩、厳格なニコラス将軍(ボリス・カーロフ)は基地の近くの小島へ亡き妻の墓参りに訪れるが、墓は荒らされていた。近くの古屋敷に数人が疎開していて将軍も一晩泊まることに。翌朝、疎開者の一人がペストを発症し急死、将軍は感染拡大を防ぐため人々が島を出ることを禁止する。島の老女キーラは、原因は伝説の吸血鬼ボボラカの呪いで、島の娘シアに取りついているのだと将軍に告げる。。。

タイトルクレジットの背景がベックリンの『死の島』でワクワクする。そして将軍が渡る小島の外観が『死の島』そのもの!邦題は原題のままの方が良かったのではないか。

シナリオはよく練られていて映像もかなり良い。黒沢清監督や高橋洋監督らJホラーが目指す空間の”魔”が巧みに表現されていて教科書の様だ。クライマックス、”早すぎた埋葬”から復活した白い影の描写は耽美そのもので傑作「血とバラ」(1960)に多大な影響を与えていると思われる(両作ともカーミラ要素を取り入れている)。製作当時に日本でも公開されていたら澁澤龍彦たちが絶賛し名作として現在に伝わっていたことだろう。日本初公開は2013年であまり知られていないのが惜しい。

ユニバーサル・ホラーのモンスター路線に対し、RKOリュートン・ホラーにはモンスターが登場しない。その前提を知らないと幻想耽美の魅力を見誤ることになりそうだ。

フランケンシュタイン役者ことボリス・カーロフは、ユニバーサルからRKOに舞台を変えて新たな魅力を放っている。リュートン・ホラーでの出演「死体を売る男」(1945) 「恐怖の精神病院」(1946)、そして特に本作では、千の顔を持つ男ロン・チェイニーが重なって見えた。

耽美で知的な香りの漂うリュートン・ホラーを象徴する傑作。

※『死の島』が登場する映画
「エイリアン: コヴェナント」(2017)神殿の一部の風景に引用
「風立ちぬ」(2013)二郎のホテルの部屋に飾ってある
「ペルシャン・レッスン 戦場の教室」(2020)収容所所長室に飾ってある
・・・他にもあったはずだが失念
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