COZY922

裏切りのサーカスのCOZY922のレビュー・感想・評価

裏切りのサーカス(2011年製作の映画)
3.8
スパイ映画とは思えないほどの静けさ、英国の持つ品格、ロンドンの陰鬱な空、大人の男達の醸し出す渋味。東西冷戦下のイギリスを舞台にしたスパイ映画です。

イギリス諜報部(通称:サーカス)の内部に潜入しているとされるソ連KGBの二重スパイ(もぐら)は一体誰なのか?サーカスの元メンバーだった男が政府に依頼され二重スパイを密かに探る物語。ゲイリー・オールドマンの感情を読みにくい抑えた表情、眼鏡の奥で光る眼、いかにも曲者っぽい佇まいが渋く味わい深い。派手な銃撃戦もカーチェイスも無く、独特な雰囲気が漂います。

ゲイリー・オールドマン演じる主人公を突き動かしていたものは何だったのか。ミッションの遂行への使命感義務感?英国国民の一員としての正義感?組織を追われた元メンバーとしての復讐あるいは野心?人物はほとんど皆ポーカーフェースで、劇中それとわかる描写や説明っぽいセリフがほとんど無いため、理解しようとするといろんなことを考え、思い巡らせながら観ることを強いられますが、作品の持つオーラに引き込まれたのか夢中で考えること自体はあまり苦になりませんでした。

難解だと聞いて覚悟して観たせいもあるけど、ストーリー的には難解ではないですね。二重スパイが誰なのかを探る、ただそれだけのシンプルなテーマです。ただ、いかんせん、登場人物が多いうえに、誰がどういう立場なのかの事実関係や人間関係の説明描写が無く、名前も本名とコードネームが入り乱れて飛び交うという不親切な作りなのが、作品難易度を上げてしまっています。

俳優陣の演技は素晴らしく題材も魅力的なだけに、もう少し人物関係やそれぞれの心情を掘り下げて描写してほしかったというのが個人的な希望であり本音です。人物相関図が頭に入った2回目以降の鑑賞のほうが、味わいが深みを増しました。

取っ付きやすくはないけれど渋くて独特のテイストがありクセになる作品。苦味酸味の強いコーヒー種をブラックで飲むような。
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