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郵便配達は二度ベルを鳴らすのhasseのレビュー・感想・評価

4.2
四度も映画化されている同名原作の、ガーネット版映画。

コーラとフランクの出会いのシーンが素晴らしい。雇われたばかりのフランクの足下に口紅がコロコロ転がってくる。拾って見上げると、向こうの部屋の扉の前にコーラが色っぽい雰囲気で立っていて、手を差し出す。口紅を持ってくるよう無言の要求だ。普通ならば、突如出現した美女の色香にやられて男は従ってしまうところ。それが映画的に一般的な画である。しかし、フランクは口紅を持ったまま動かず、コーラに取りに来させる。しばし見つめ合う二人。二人の間の数歩分の距離に、歩きだしたほうが負けみたいな絶妙な空気が醸成される。この距離と時間の使い方。これが本当に映画的なシーンだ。

二人のその後の関係性はこのシーンに凝縮されている。二人は愛し合いながらも、互いに相手の下につくことをよしとしない。能天気で愚鈍な夫ニックを蚊帳のそとに、「恋愛は下手に出たほうが負け」を地でいく二人の水面下マウント合戦が繰り広げられる。女は男を一週間無視するなんてことを平気でする。
夫殺しや裁判のいざこざを経て、二人は純粋に愛し合う関係性になるのだが、欲を言えばその辺の情念、心境の変化をねちっこく描写していたら傑作だった。後半は特に、裁判の進展を追うあまり会話も説明口調が増え、シナリオをこなすので手一杯になってしまった印象。

終盤でコーラがフランクを浜辺に誘いだし、泳げるところまで泳ぎましょうと言い出した時はついに殺る気か…?と思ったがかえって愛を深める結果に。等々、最後まで結末が読めない展開だったのは○。
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