たく

乳母車のたくのレビュー・感想・評価

乳母車(1956年製作の映画)
3.8
「五人の斥候兵」が良かった田坂具隆監督1956年作品。父親の不倫を知って葛藤する娘の話で、やけに理屈っぽい会話で進む地味な作りながら、人物の表情を捉える柔らかい映像に引き込まれた。

裕福で平和な家庭に育ったゆみ子が、父の不倫を知ってその相手に会いに行く大胆さ、そして自分の気持ちをストレートに表す彼女の素直さが膠着状態の人間関係を動かして行くのが見どころ。現状のぬるま湯生活に留まるために夫の不倫を見てみぬふりをしてきた母親が、ゆみ子の言葉を受けて自分の本当の感情に目覚めていくんだけど、不倫の当事者を一方的に否定するんじゃなく、それぞれの立場が抱える気持ちを丁寧に描いてるのが良かった。

最初父親の顔がなかなか登場しなくて、中盤で宇野重吉と分かる演出が上手い。とも子が「女性の誇りってものをもっと大事にしなきゃならない」というセリフを言う時に急にカメラ目線になり、観客に向かって言ってるように感じるシーンがドキッとさせて凄かった。女性の自立という本作のテーマとも言える象徴的なこのセリフを強く印象付ける演出だった。

芦川いづみがほんと若くてキラキラ輝いてたし、石原裕次郎もキャリア初期で若く、チンピラっぽい役だけど爽やかさが漂う。新珠三千代がこれまた美しい。彼女の出演作では本作の10年後となる「女の中にいる他人」が一番のお気に入り。
たく

たく