きゅうげん

エルム街の悪夢/ザ・リアルナイトメアのきゅうげんのレビュー・感想・評価

4.1
『エルム街の悪夢』でナンシー・トンプソンを演じスターとなった俳優ヘザー・ランゲンカンプ。
ホラーファンからの面倒な悪戯はしばしばあったが、フレディ役のロバート・イングランドや父親役だったジョン・サクソンとの交流は続き、また特殊効果作家の夫と一人息子に囲まれ幸せな生活を送っていた。
ある日ニューラインシネマのプロデューサーから、ウェス・クレイヴン監督による最新作の話を持ちかけられる。時を同じくしてヘザーのまわりではその脚本にある通りの、まるでフレディ・クルーガーの所業としか思えない出来事が相次いで……!?


原作者と初代出演陣だからこそできるメタ・ホラー。
長寿シリーズが構造的な趣向を試みることは“あるある”ですが、だいたい一発アイデア勝負で竜頭蛇尾になると相場が決まっています。『13日の金曜日』第9作あたりが、代表的な失敗例でしょう。
本作の意欲的なメタ構造の本質は、作品中盤にあるヘザー・ランゲンカンプとウェス・クレイヴンとの会話にあります。
神話・昔話から映画制作にいたるまで、“語り継ぐ”という行為がもつ人の営みとしての意味のひとつは、本質的な恐怖に対する教訓・治療・必勝法であるというのです。
これは心理学・哲学を修めたウェス・クレイヴンならではのホラー論でありつつ、フランチャイズ展開に乗り気じゃなかった監督自身なりの、腹の落としどころなんじゃないでしょうか。
それを踏まえてクライマックスを観ると、母が子へ読み聞かせた『ヘンゼルとグレーテル』が効いてくる、テーマに適う展開であるとともに、またボイラー室で火刑に処されたフレディの物語とも重なる、すばらしい映画的演出であるといえます。

嫌がらせから殺人にいたるまでフレディの所業と現実の事故・事件との見分けがつかない……というパラノイアックなスリラーの数々も良質です。
そしてだからこそ、「駆けつけてくれたジョン・サクソンはまるで演技をしているようで、自分もいつの間にか衣装に着替えていて、振り返ってみると何とエルム街のあの家。そこに例のメインテーマが流れてくる……」、という映画の外と内が渾然一体となるシーンの衝撃はひとしお。
読み聞かせをする母子を取り残してカメラが遠のいてゆくラストカットも、映画作品であることにとても自覚的な演出で唸らざるを得ません。


1994年当時に発生したロサンゼルス地震を早速盛り込んでいるのも、夢や幻と現実との境界線の破壊に貢献しています。
それにこれ、単純に映像資料的な意味でも重要なんじゃない? 
あと息子にお薬飲ませる妙にハイテンションな看護師さん、『インシディアス』はじめ2010年代中盤のホラー映画にめっちゃ出てたオバさんじゃない???