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五月のミルのooospemのレビュー・感想・評価

五月のミル(1989年製作の映画)
4.5
ミルー!助けて!

階段を登るミルの母親は死にかけている。玉ねぎを切ったために、涙を流しながら。
ふらふらになりながら鼻歌を歌う。死を扱うテーマだが、これはもはや上品なコメディでは‥‥と作品の全体像を予感させるシーン。
案の定『五月のミル』は全体的に軽快なコメディタッチで描かれた作品だった。

わたしは『地下鉄のザジ』が大好きなのだけど、両者に通じるものは沢山あった。表向きの軽快さと、陰に潜む社会的な、皮肉っぽい視点が共生している。うわべの愉快さだけで笑ってばかりでいられないのがルイ・マルの奥深さ。


ブルジョワに対する皮肉も込められているだろう。しかしこれは、"人生を楽しむ"という生き方そのものへの賛歌のように見える。
母親が死んで親族が集まり、ガヤガヤ落ち着かない中やっとひとりになれたベッドの中で、涙を流すミルのシーンも、悪いけどどうもどこか滑稽である。フクロウがやってきた‥‥ほら、笑わせに来てる‥‥!

ミルの心情と性格をリズミカルに描きつつ、群像劇のような魅力も持つ豊かな映画だった。
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