ケロケロみん

袴田巖 夢の間の世の中のケロケロみんのレビュー・感想・評価

袴田巖 夢の間の世の中(2016年製作の映画)
4.5
昨日私は静岡県の由比というところに桜えび(旬の生の)を食べた。レストランは東海道線路沿いにあり時々黄色い短い列車が通る。映画ではその先の清水駅あたりの線路沿いの古い建物が写っていた。50年前味噌工場の専務宅が全焼し専務一家4人が殺害された「袴田事件」の現場だ。2014年3月27日、袴田巌さんは1966年7月の逮捕から48年後、警察の証拠品捏造、自白強要等の疑いを排除出来ぬと判断され地裁は拘置停止とした。(抗告されたため無罪ではない)袴田さんは48年の拘禁生活を終え、3か月の入院後姉の秀子さんの家で「自由な」生活に戻って行った。

巌さんの長姉によると「私は結婚して子供と家族ので手一杯だけど秀子(次姉)は独身で自由がきくから」とのことで秀子さんが巌さんを支えつづけ、今も自宅に引き取り面倒を見ている。
81歳の秀子さんは毎日腹筋などの運動を30分行い、家を歩き回る巌さんのために常に床をピカピカに掃除、パソコンで麻雀をするのが趣味。

巌さんは死刑宣告を受けた頃から精神に異常をきたし、出所時には完全に自分の世界にこもっていた。ご飯の後には「イリストのパン」をねだり一日中家の中をぐるぐる歩き回り(独房でもそうしていた)インタビュー時には「全世界を制覇し王である私は…」と意味不明で聞き手も「そうですね…」というのみ。
数ヶ月後寝て過ごすことが多くなったと思ったらウズラの卵大の胆石があり胆嚢切除、更に心臓も弱く、足の爪もボロボロだった。

秀子さんは話の間に笑いを入れるような気丈な人で、人生と、精神と、健康全て失い抜け殻のような巌さんを見守った。ドキュメンタリーの始まりと終わりでは巌さんの様子が変わってくる。そこが一番の成果であり見所だ。

約半世紀にわたる拘禁が精神を破壊した…それをノンフィクションで見せられて衝撃だった。うつろな顔が残酷に悲しかった。

事件の真相は関係者全て正直に手続きして、秀子さんを安心させて欲しい。