Myon

イノセンスのMyonのネタバレレビュー・内容・結末

イノセンス(2004年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

引用でない台詞も引用に聞こえてくるくらい難解な言い回しが多い。何度か見直して細部を自分なりに咀嚼してみると、人を煙に巻くような言葉も装飾物ではなく、ちゃんと一貫した意味のあるものだと分かる。
自分のことばで台詞が書ける筈なのにそうしないのは、引用の方が主観を排して一般化されたものだからではないだろうか。言い換えれば登場人物は全編通して(押井さんの)自論を解説してくれているわけだ。

とはいえGISでも兆候はありましたが、この人が描きたいのは結局バトーと運命の女、素子なんですね。説明過多な人形論は非常に興味深いが、肝心の主人公=バトーは人形たちを通して素子(と自分)を見ているだけで、ハダリに肩入れしているわけでも、ましてや被害者のために事件を解決しようとしているわけでもない。後半少女を叱咤するシーンも、原作の同シーンとは怒りのベクトルが違う。
その自己中心ぶりが実に同監督の描かれる男女らしくて、私は非常に気に入っています。

皮肉にも、視聴者が感情移入しやすそうなトグサよりよっぽど「人間的」に描写されている。
というより押井さん、自分の描きたいもの以外は割とご自身と距離を置いた描き方をされますよね。実際監督の愛犬でもあるバセットハウンドの描写は犬を飼った経験のある方ならもれなく首肯してしまうほどリアル。
一方でトグサや荒巻は決められた台詞を喋る人形のよう。一応らしいシーンはあるにはありますが、取って付けた感がある。アズマなんか存在感が下手するとアロワナのボール以下ですよ。イシカワやハラウェイ(cv毎度お馴染み榊原さん)はとても味のある脇役だと思えるのですが。

とはいえ素子も素子で相変わらず視聴者と距離がある。今作では却ってそれが体を捨てた存在の霊妙さになっていい感じでした。
「素子」の再登場シーン、原作はもちろんSSSあたりと比べてみると面白いかも。
押井素子はヒロイックな神山素子に比べ実にパーソナルに女性してるなあと思う。体を捨ててもなお。
バトーは恋慕と義体をこじらせすぎ。このロマンチストどもが再会できたのはまぁ良かった。あのまま飼い主がイカレっぱなしじゃあガブリエルが飢え死にしちゃうから。

原作の血が通った革新的な映像作品は一作目で充分。今作は川井ミュージックに乗せた頑張るおじさん2人の珍道中を楽しむべき。もちろんフチ/タチ/ウチコマは出ません。
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