カッパロー

悪い子バビー/アブノーマルのカッパローのレビュー・感想・評価

4.4
「バビーは死んだ、もうパピーだ」

異常な母親のもと35年間暗い部屋の中で暮らし続け正常な発達を妨げられてきたバビー。機会を得て外の世界に独り放り出されたバビーは、数多もの出会いを経て、パピーへと成長していく...

素直に、面白かった。『哀れなるものたち』を想定してもっと説教くさい作品かと身構えていたが、その予想は裏切られた。

虐待、性暴力、障害者、犯罪、殺人、宗教、、、。今作には重い(それ単体でいくつも映画が作れるような)テーマがこれでもかと詰め込まれている。それでいて説教くささを消しているのは、ひとえに監督の努力によるものだろう。あえて全てを雑多に配置し、バビーの前に陳列する形で提示することで、無垢な目線で見つめるバビーと同様、観客もニュートラルに受け入れる余地を残してくれている。気楽で、優しかった。

バビーは、人の言葉を盗んで自分のものにしていく。道端のヤンキー、警官、バンドマン、世界がバビーに語りかけたその全てが、バビーの手札だ。観客はバビーの台詞を耳にするたび、数十分前のシーンを思い出し、ほんのりとした懐かしさと共に映画の世界に入り込んでいける。ミュージカル映画が音楽を重ねて用いたり、技巧的な脚本を持つ映画が構造を繰り返し用いたりするのと同様に、バビーの映画はバビーが繰り返すのだ。素晴らしいギミックだと感じた。

もちろん、人殺しといてそんなんでいいの?とか、バビーの成長のさせかたが雑じゃない?とか、つっこみどころは多くあると思う。それでも、この映画の人間賛歌としての価値は、否定できないだろう。母親に禁じられたら移動すらできなかった男が、好きな人のために何だって自らできる人間になれたのだから。

個人的には、バンドマンのやつらが好みでした。困ってるやつがいたら助けてやるようなやつらであり、けれどヤバくなったらわけわからん金持ちにバビーを押し付けるようなやつらでもあり、けれど結局バビーがスターとして輝き出したら一緒に楽しむような人間くささがたまらなく好き。
カッパロー

カッパロー