主人公は蝙蝠に噛まれたから蝙蝠男になったのではなく、最初から吸血蝙蝠幻想に囚われている。ここが重要で、要するにこれは人間の悪についての抽象的な物語、薬物実験を介さないジキルとハイドの物語だ。蝙蝠男を追う保安官もまた鏡像関係のように悪に魅入られていき、主人公とその妻、そして保安官が荒野の洞窟へと吸い寄せられていく終盤の怪異には息を呑む。
思えばあの観光名所の洞窟で、夫婦が観覧コースから外れて人知れずセックスをしようとしたところから全てが狂っていく。それぞれ人間には洞窟があって、そこでは群れた蝙蝠がこっちへ来いと蠢き鳴いている。あの場面の妻の発情は最初唐突で安っぽく感じるのだが、最後まで見て振り返れば、内なる蝙蝠の声を聞いて夫婦二人して人外へ踏み出たということなのだろう。
警部マクロード風出で立ちの保安官役はマイケル・パタキ。ここでは吸血鬼役でこそないが『惨殺の墓場』『ドラキュラ・ゾルタン』とともに彼の吸血鬼映画三奇作といったところだ。製作・脚本のルー・ショウは吸血鬼映画の佳作『ゾンパイヤ』(これも変わった映画だった)やテレビ『警部マクロード』の脚本家。ジェリー・ジェームソンは『警部マクロード』の監督もしている。
テレビでは『ザ・ダークホール』の題でも放送されたことがあるようで、モンスター映画というより、まさにそういった抽象性を抱えた特異な吸血鬼映画の傑作になっている。

• #吸血鬼

大人な恋愛UMA映画
さすがアメリカ作品、コウモリ人間と保安官のカーチェイスシーンがありますよ