外見だけ見るとすごい重そうだけど案外そうでもないストーリー。
ソクラテスの弁明をベースにした現代劇のような作りになっているけど、主人公とソクラテスは裁かれた原因において決定的に違っているのが本作の肝要。
ソクラテスはその哲学的精神と法的秩序の折り合いがつかなかったことにより法の裁きをくらう結果となったけど、本作の主人公はただ単に尊厳死を行う上での書類手続きを怠った脇の甘さを裁かれているだけに過ぎない。
正当な手続きを踏めば合法的に遂行できたはずの医療行為に関して、手続きを行わなかった説明が不十分である以上、それは単なる職業上のミスでしかないため、人間の良心を問題にせずとも司法も観客も適切な判決は下せる。
よって、本来テーマとされるはずだった良心と秩序の対立は、この映画ではそもそも同じステージに立てていない為、結果的には完全に両立できているように見える。
法がどんな裁きを加えたとしても、それはあくまで医者としての彼女に対してであり、良心や心の機微とは全く関係がない。ソクラテスとは話が別である。