ジャッキーケン

クラウド アトラスのジャッキーケンのレビュー・感想・評価

クラウド アトラス(2012年製作の映画)
4.3
19世紀から文明崩壊後の世界まで6つの時代と世界で繋がる超スペクタクルなウォシャウスキー映画

6つの世界の話を一つの映画に纏め上げるのは至難の業だと思うけどウォシャウスキー姉妹は完全にモノにしてる
どの世界線の話でも一貫してテーマに沿った話であるのも後半後々分かってくる
6つの話が同時進行していくから最初は把握するのに苦労するんだけど、良い意味で「複雑な面白さ」がある

「複雑な面白さ」というのは難解だから面白いというわけじゃなくてむしろこの映画は分かりやすい方。
大体の映画ってのは設定、対立、解決の構成で描く三幕構成というもので出来てるんだけどこの映画は6つの物語を三幕構成できっちり作られてる、最初の設定はやはり6つの物語設定を飲み込むのに苦労をするんだけど中盤の対立からググッと面白さが増してくる。なんせ映画6つ分の対立が同時進行で描かれるわけだからハラハラしないわけがない
解決に至っては一貫してハッピーエンドという形にはならないがその結末一つ一つが本作の伝えたいメッセージであったり別世界の話に繋がっていたりと1度見て、2度目の鑑賞でハッとさせられるタイプ

主にトムハンクスとハルベリーが演じ分けしている役が多くて登場率が高いんだけどここは役者の本来の力を発揮していて同じ人物が演じているけど全く違う役柄を絶妙に演じ分けてるし極端に性格が違うキャラクターだから同じキャラと被ったりしていないから分かりやすい

大雑把に6つの話の感想を並べると

1849年 奴隷貿易船で病に倒れた弁護士と黒人奴隷の話で奴隷制度を促進させる弁護士と黒人奴隷の交流、弁護士は船の出来事を通じて考えを変えていくというものでラストが良いし奴隷が船の帆をアクロバティック展開するシーン好き

1936年 作曲家を目指すベン・ウィショーが銃口を口にくわえて自殺しようとしているところからスタートする物語で何故そうなったか行き着くまでを描いたLGBT物
ベン・ウィショーがイケメンすぎて妊娠
美しくも儚い恋愛物

1973年 ハルベリーが原発資料を巡って奮闘する陰謀系スリラー
SF色を感じさせないポリティカルなストーリーが良い、ヒューグラントが胡散臭い
車が橋からダイブするシーンの一連は芸術的、ラストも好き

2012年 貧乏爺さんが金持ち兄貴に老人ホームにぶち込まれて脱出を目論む物語
一番コメディな話でそれでも本作から一貫して描かれる管理からの解放を面白く可笑しい脱出劇になってる、如何にもおじさん好き。ヒューゴウィービングおばちゃん怖すぎる

2144年 ペドゥナが奴隷フーターズから脱出してからのその後を描いた一番ウォシャウスキー的SFを感じられる物語。サイバーパンクな世界観がブレードランナーみたいでウットリするし他のエピソードでネタにされる「ソイレントグリーン」展開が残酷、アンドロイドによる革命的なストーリーでデトロイトビカムヒューマンも彷彿とさせる

2321年 文明崩壊後の世界を舞台に現地人トムハンクスと宇宙人ハルベリーのアドベンチャー、俺的にこのエピソードが一番好き。終盤の「アポカリプト」が最高だしトラウマからの解放というテーマをなぞった民族と未来文明が手を取り合い、科学力の違いというだけでは民族の優劣をつける事ができないところを描いてる点や優しいラストも好き、このエピソードにおけるトムハンクススキンヘッドのオチがすげぇ腑に落ちた

3時間だから長いと思われがちだけどむしろあの壮大なストーリーを3時間でまとめ上げられたのが凄いし今だったらNetflixとか配信サービスでドラマ化されてしまいそう。

話がゴッチャになるどころかちゃんと起承転結における転の部分の面白さが加速していくしやっぱり6つ分のスリリングを同時進行で味わえるのは面白い
同時進行という点では「インセプション」の面白さに近い