福福吉吉

舟を編むの福福吉吉のレビュー・感想・評価

舟を編む(2013年製作の映画)
5.0
玄武書房の辞書編集部のベテラン社員・荒木(小林薫)は自身が定年を迎えるため、代わりとなる社員を捜していたところ、営業部の馬締(松田龍平)の言語感覚に惹かれるものを感じ、辞書編集部にスカウトする。馬締は現代で次々生まれる新しい日本語を広く取り入れた辞典「大渡海」の編纂に生きがいを感じ、意欲的に仕事に取り組み始める。10年以上費やす辞書の編纂の中で、馬締は様々な出会いと困難に遭遇し、成長していく。

10年以上の歳月を費やす新しい辞書の編纂に携わる馬締を始め、多くの人々のドラマを描いた作品です。決して派手なものはありませんが、辞書のごとく、地味で小さな出来事が積み重なって大輪の花を咲かせるストーリーは静かながら新鮮で暖かいものを感じさせてくれました。

主人公の馬締は極端に人とコミュニケーションをとることが苦手で、常にボソボソと話す変わり者ですが、元々、大学院で言語学を専攻したこともあって辞書編集部で生き生きとした姿を見せてくれます。それでいて必死にコミュニケーションをとるように努力する姿も好感が持てて魅力的なキャラクターでした。彼はカグヤ(宮崎あおい)と出会い、恋に落ちるのですが、彼の不器用さがとても新鮮で毛筆の行書体でラブレターを書いたときは笑ってしまいました。感情をあまり表に出さない馬締ですが、観ているうちに彼の心情がなぜか伝わってくるように感じて、松田龍平の演技の力なのかなと思いました。

馬締の先輩にあたる西岡(オダギリジョー)は馬締とは対照的にコミュニケーション能力に長ける現代的なキャラクターです。彼はあまりにも時間がかかる辞書編纂に辟易し、馬締を変人扱いするのですが、次第に仕事に情熱を持ち始めて馬締とも友情を築き始めます。その姿が観ていて非常に心地よく、オダギリジョーの演技がきっちりハマっていたと思います。彼の存在が本作品の中で緩い空気と観やすさを作っていたと思います。

他にも多くの個性的な面々が辞書編纂に情熱を傾けていく姿をとても魅力的に描かれており、観ていて全く飽きなかった。

ものづくりに大切なのは「情熱」だということを示す作品となっており、この静かな人間ドラマの魅力に虜になりました。非常に面白い作品でした。日本でしか製作できない作品です。

鑑賞日:2023年3月16日
鑑賞方法:NHK BSプレミアム
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