えいこ

舟を編むのえいこのレビュー・感想・評価

舟を編む(2013年製作の映画)
4.8
一生の仕事に巡りあい、辞書の編纂に静かな情熱を灯し続ける馬締くんの成長物語。
歩き方や少し屈めた背中に、不器用さがにじみ出ている。それが、物語の進行とともに、経験を重ね良き伴侶を得て少しずつ自信や誇りを身につけ変化していく。松田龍平の繊細な演技で、私たちは馬締くんが心配になり、知らず知らず肩入れしてしまう。

取り巻く人々はみな暖かく、辞書編集部の同僚はとりわけ優しい。かなり変人な馬締くんが水を得た魚のようにのめり込んでいくのと同じように、私たちも言葉の力に引き込まれる。「恋」のくだりは特にきゅんとしてじんわり泣ける。

下宿のレトロな雰囲気も事務所の雑然とした様子もリアルで、校正の鉛筆や赤入れに、あったなぁこれ、と懐かしくなる。嫌な人はひとりも出てこない。きちんとした言葉遣いや料理や食事の所作に心が浄化されていく。窮屈でない自然な丁寧さは映画全体から感じられる。

じんわり温かい元気になれる映画でした。
えいこ

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