金子

舟を編むの金子のレビュー・感想・評価

舟を編む(2013年製作の映画)
4.5
『舟を編む』を見てきました。
三浦しをんの本屋大賞受賞作品の映像化されたもの。
舞台は1995年。
ある出版社の辞書の編集者が退職する事になり、その後任を探していた所、一人の青年が目に留まる。
青年は、営業部に所属しながらも、他人とのコミュニケーションを取る事が苦手で、良い成績を上げる事は出来ず、周囲からは変人扱いをされ、部署ではお荷物扱いをされていた。
そんな彼が持つ個性。それは類稀なる言語能力。一つの言葉を様々な言葉で表現することに長けていた。
その青年こそがこの物語の主人公、馬締光也。彼は辞書編纂部に所属することになり、辞書『大渡海』を制作してゆく。
十年以上の時間を掛けて、辞書を編纂するという長い時間の中で起こる様々な人と言葉との関わり合いを描いた物語です。

全く原作を読まないで見に行ったのですが、非常に興味深いお話でした。
辞書って、一言に言うけれど沢山の出版社が制作していて、非常に個性的。一つの言葉の意味を見るだけでも、様々な捉え方がある。
この作品で、まず出てくるのが『右』という言葉。
この言葉を説明せよ!と言われたら貴方は説明出来るだろうか?
ある辞書では、「時計の文字盤を見て、1〜5までの間」と書かれていたり、
ある辞書では、「この辞書を見開きにして偶数のページの方向を呼ぶ」というものだったりする。
辞書は、小説などと同じ、もしくはそれ以上に作り手の性格が顕著に現れる書物なのだと感じました。
そして、辞書を編纂する上で怖い事は、一つでも間違いがあれば、その辞書に掲載されているその他何十万という言葉の意味が信頼を失ってしまうということ。
そんな途方もない作業の果てに生まれるものなのだと知りました。
そう言えば、ここまでネットが普及する以前は『広辞苑』の新版が出版されるというのは、同じ出版の話題を例に出すと、村上春樹が新作を発表する位の話題性があったなー。なんて思い出したりもしました。

こういう言葉を題材にした作品と言うだけあって、出てくる台詞なんかもかなり個人的にグッとくる言葉が沢山ありました。
「人の気持ちなんて分かる訳がない。分からないからこそ言葉を沢山使って相手の事を分かろうとするんじゃないか」っていうのが一番好きでした。

この一見ドキュメンタリーのような物語を非常に魅力的にしてくれているのが主人公である馬締くんの存在。
他人とのコミュニケーションが苦手な彼が少しずつ不器用なりに人間関係を構築していく様が非常に微笑ましかったです。
沢山言葉を知っているという事はそれだけ物事を正確に捉えられるということではなく、現実とのギャップを四苦八苦しながら埋めていく様が硬くなりがちなこの手の物語に笑いを与えてくれます。
そんな彼が恋をする様は本当にキュンとします。
どれだけ才能があろうが、どれだけ頭の中で理論的に解釈できる事柄だろうが、それを具現化する術を持たなければ上手く行くものではないのだなー。

最近、『世界は言葉でできている』というテレビ番組が話題になるみたいに、「言葉」っていうものの重要性がクローズアップされている。
前述もしたが、インターネットがある事が当たり前になった今日、情報が素早く手軽に入手出来るようになったが、その情報を伝えてくれるのは言葉である。文章という形で言葉はいい意味でも悪い意味でも常につきまとう存在になった。
Twitterを見ていても、話題に登るツイートというのは自分の気持ちを簡潔に伝えているものが多い。
金子

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