白縄堤VS邪悪な洋画軍団

ムーンライズ・キングダムの白縄堤VS邪悪な洋画軍団のネタバレレビュー・内容・結末

ムーンライズ・キングダム(2012年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

ウェス・アンダーソン監督作品7本目
個人レビュー4本目。

アメリカ・ニューイングランド沖に浮かぶ小さな離島で繰り広げられる小さく大きな物語。

孤児の12歳の少年サムははみ出しもの。ボーイスカウトでも仲間にハブられ、友達も出来ない。そんな中彼はキレ症で「問題児」の少女スージーと二人で駆け落ちする事を決断する。サムは自分のテントに置き手紙を残してキャンプを脱出、スージーと一緒に島からの脱出を図るのだ。
この一見可愛らしい計画がスージーの両親、サムのボーイスカウト部隊のリーダー、島の保安官をも巻き込む大きな事態に発展するのだった。

『天才マックスの世界』、『ライフ・アクアティック』、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』を経て作り上げたウェス・アンダーソン監督のアーティスティックな世界観がこれでもかというくらい美しく昇華されている一作である。

彼のシンメトリーを強調するコンポジション、美しく絵本から飛び出してきたような舞台やセット、多種多様で個性的な登場人物はこの作品でも健在でありながらも、彼の他の作品とはひと味違うよりメルヘンでドリーミーな雰囲気が出ているのだ。

では、それは何故か。
私は今作のストーリーの内容がウェス・アンダーソン監督の作風とがっちりマッチするものになっているからだと考える。

愛する2人が人々や生活から抜け出し、パートナーと共に時間を過ごすために駆け落ちするというシナリオはよくあることなのだが、主人公2人が12歳だとなると話はまた別だろう。「愛」や「結婚」というコンセプトさえも完全に理解していないだろう子供が駆け落ちをするというのは非常に挑戦的なコンセプトだと思った。しかしながら、作中互いに会話をするシーンや、ビーチで時間を過ごすシーンを見ていると、やっている事は大人がやることと同じものなのだ。ただ、ひと握りのピュアさと従順な愛情を足しただけ。
このように、大人の世界にちょっぴり背伸びをする2人がウェス・アンダーソンのレトロで絵本のような作風と非常にマッチしているのだ。

それに加えてサムとスージーの関係をさらにピュアで美しいものに見せれたのは、作中にスージーの両親の関係を見せた描写があり、オーディエンスはそのふたつの関係を対比して鑑賞するからだろう。
サムとスージーとは裏腹にスージーの両親、ウォルトとローラの関係は完全的に冷めきってしまっていた。会話はドライ、愛情というより我慢という言葉の方がマッチするものだ。
この2つの関係を見ていかにサムとスージーが背伸びをしているのか、そしていかに2人がピュアでありながらもお互いを愛し合っているのかというのが強調されている。

私が冒頭に書いた「小さく大きな物語」とはこういうことだ。小さい子供が大人の世界に踏み込んでいく。けど2人が一緒なら怖くない。やがてそれは周りを巻き込んで、大きな冒険譚へと発展する。
なんて美しいストーリーなのだろうか。
ウェス・アンダーソンのこの作品は彼の中でも抜きん出てメルヘンであり、愛すべき1本である。