マンション

ザ・マスターのマンションのレビュー・感想・評価

ザ・マスター(2012年製作の映画)
4.7
僕の大好きなポールトーマスアンダーソン監督による、裏ブギーナイツ的大傑作。

舞台となるのは、人畜無害なカルト教団。しかもそれは家族経営で成り立っており、周辺の信者達も結婚し合ったり教団ぐるみで育児したりしてて、ほぼほぼおっきな家族として描かれている。

過去作ブギーナイツでもポルノ映画の製作チームを擬似家族として描いていたが、2作品続けて観ると、PTA監督どんだけ自分の家族のこと嫌いやねん、とつくづく思わされる。どちらも同じ事を言うてるのだが、アプローチが全く真逆、みたいな。それはつまり、人間同士が互いに求め合う連帯感について。ブギーナイツではそれを時に切なく、滑稽に、最終的には肯定的に描いてくれた映画のように思うが、本作マスターでは部外者の視点を通して、ただただ気味が悪く、痛々しいものとして浮き彫りにした感じがする。

そして本作においてその部外者のドライな視点を担うのが、全く感情が読めない狂犬、ホアキンフェニックス。
ぱっと見見ただけでこんな奴近づきたくないと思わせるヤバみ全開オーラが凄い。ツラ構えがもう完成しちゃってる。
そんな狂犬を主人公に配置する構成が文学的。

"救済を求めてないならなぜここに?
偶然現れたとは思えない‥"
なんて言われてたが、彼がこのコミュニティに引き付けられたのは、生来の共感能力の欠如から来る、無意識的な連帯感への憧れではないだろうか。

映像はというと、とにかく照明の反射が眩しく、青色が青く、被写体深度が浅く、全編において白昼夢を漂う感覚でなんとも言えない陶酔感を味わえる。
白昼夢といえばPTA監督はレディオヘッドのDaydreamingという曲(神曲)のMVも撮っているが、本作で教祖(大好きフィリップシーモアホフマン)が説く“魂が前世また前世と輪廻転生の記憶を遡ることで苦しみの根源に辿り着ける”の教義が、まんまこのMVのイメージと重なるところがあり、監督の作家性において何かしら一貫したものを感じずにはいられない。