"虚像"
5年前に観たときは良さがよく分からなかったが、今回の再鑑賞はとても楽しめた。
冒頭、砂で作られた女体に寄り添うフレディ。
就いた仕事は写真の撮影。
全てが虚像である。
本作の宗教家はプロセシングと繰り返しによって、いたずらに虚像を弄ぶ。
もはや存在していない過去の自分を掘り下げさせ、自己開示によるコントロールを行う。
本作のホアキン・フェニックスを観ていて、自分が『ジョーカー』に求めていた狂気はこれだったんだと気づいた。
トッド・フィリップスの『ジョーカー』も好きだが、主人公に同情させるために分かりやすく悲劇を詰め込みすぎて湿っぽくなり、狂う過程を明確にし過ぎたのが、特に初見時に違和感を覚えた。
本作では戦争で精神を壊したフレディの精神的解剖をありのままに描く。
フィリップ・シーモア・ホフマンの柔和な笑み。
ホアキン・フェニックスのコップが溢れる寸前の水面のごとく神経質な目。
狂気と狂気の戦い。