マインド亀

ブラック・ジャックのマインド亀のレビュー・感想・評価

ブラック・ジャック(1996年製作の映画)
4.0
100%濃厚!出崎統演出炸裂しまくりのハード目ブラックジャック!

●いや〜もう久しぶりに出崎統作品を観ました!1996年当時はそういう事も知らずに観ていましたが、今観てみると、アニメファンにとっては伝説の出崎演出が炸裂しまくりで笑えるくらい濃厚な出崎統作品でした!!
出崎演出でもっとも有名な止め絵演出「ハーモニー」。これがもう至るところで炸裂しているわけです。これを出崎統監督以外の人がやれば、もうパロディとして成立するのですから、これをやれるのは出崎統監督しかいません。

●そして繰り返しショット、画面分割、透過光、入射光も当然炸裂。キャラクターは陰を描き立体的に。これだけ濃厚な映像であれば、必然的に物語は大人向けにならざるをえません。
今作で評価されるのは、神様である手塚治虫の原作には無い、完全なオリジナルストーリーという点です。
高度に発展した科学や医学によって行き過ぎた倫理観の崩壊に警鐘を鳴らすという点では、手塚治虫の意志を見事に継ぐ作品だと思いました。
序盤ではこの絵柄にぴったりなオトナなブラックジャックが、正体不明の組織の研究に参加させられるなど、医療サスペンスとしてワクワクさせられました。

●ですが、医療サスペンスとしてワクワクさせられるものの、正直なところ少し拍子抜けしてしまいました。
医療サスペンスとしては、肝心の原因部分がSF寄りになってしまったことですね。正直、医療専門の人が脚本を書いているわけではなので、仕方が無いとは言えます。元々の原作でも割とSF設定も多いし、そもそもあり得ない医療描写もあるのですが、ただそれは手塚治虫絵だからこそ許されるような気がします。
この作品の絵柄だと、もっとリアル寄りな医療とポリティカルなサスペンスを期待してしまいます。ひょっとしたら脚本を、ゴルゴ13のさいとう・プロダクションに任せてしまってもいいくらいなんじゃないかと思いました。
頑張ってはいるのですが、結局原因を未知のウイルスにしてしまったら、なんでもアリになる気がして、それだけならまだしも解決方法も割と安易。
また、サスペンス部分を期待してた身としては、中盤に正義の敵対組織が突然登場し、すでに調査していた内容を全部バラし、一気にマッドサイエンティストの組織が崩壊に向かうのも不満でしたね。ブラックジャックはあくまでも外科医療によって患者を救うことが目的ということなんでしょうが、それならもう少し組織の正体を掴む過程を見せる捜査員キャラクターを並行的に動かしても良かったんじゃないかと思いました。

●しかしながら、マッドサイエンティストのジョー・キャロル(CV:涼風真世)にあまりに同情をさせない作りは良かったですよね。さすがにバックグラウンドはハードすぎるので、同情しないわけではないんですが、やってることがえげつなさ過ぎて、最後まで反省をしないところが良かったです。組織からの差し金に殺されかかってもきっちり対応するし、それが自分の信頼していた秘書でも容赦なく殺す。魅力的な悪役でした。

●そしてやっぱり何と言ってもブラックジャック役の大塚明夫さんの声が超、イイ!!やっぱりこれじゃないとダメですね。いいにきまってる。特にこの出崎統絵にピッタリの渋めの声が良かったです。(ピノコの声が宇多田ヒカルじゃなくて良かった(笑)黒歴史…)

●いずれにしても、26年程前のアニメとしては、誰もが安心して観ることの出来る素晴らしい作品だと思います。その当時の最先端の技術は、今観てもとても美しいし、出崎統演出の素晴らしさを知ることの出来る傑作であることは間違いないです。是非見てください!
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