ツクヨミ

空気人形のツクヨミのレビュー・感想・評価

空気人形(2009年製作の映画)
4.6
中身が空っぽだからできること…
のぞみと呼ばれるエアドールはある朝突然心を持ってしまう。感情を持った人形は世間を放浪していく…
是枝裕和監督作品。今作はエアドールがもし感情を持ってしまったらという面白い設定で進むファンタジック日常ストーリーに身を任せてしまいたくなる作品でした。そもそもエアドールというのは男の性欲の吐口として使われるのが主で、そんなエアドールが主人公の話だから胸糞映画になりそうだ。しかし今作は主人公である人形が世間に飛び出し人と関わることで少しでも世界を満喫しようとする姿を描くのが主でふわふわと舞い上がるような気持ちにさせてくれる。ペ・ドュナの自然な無感情演技と中身が空気なので"感情を持った空気人形"という異質の存在が"のぞみ"をじわりと形成していた。ほんとに日常的な話なので好き嫌いが分かれそうだが、私は是枝監督が作り出すこの雰囲気がすごく好きになってしまったのだろう。
しかしそんな雰囲気でも現実は非常だ。のぞみは日中街を遊び歩いたりビデオ屋でバイトをしたりしているが、家に帰るとエアドールの役目を全うしなければならない。エアドールの本来の目的は持ち主を満足させることは間違いないが、のぞみ本人にとっては毎晩現実に引き戻され性欲の吐口にされる…感情を持ってしまったのぞみはどんな辛い気持ちなんだろうか考えずにはいられなかった。後半の展開はその問題にかなり踏み込み見る側の心を揺さぶる流れにしだいに涙が溢れていた。ラストは悲しみと優しさが愛混じった独特の余韻に浸れる素晴らしい作品。
全体を通して明るい日常と重くるしい現実という二面性を持った日常ドラマに包み込まれるような作品だった。ペ・ドュナの本物の人形のような透明感がある佇まいにも魅了される。こんな雰囲気を作り出した是枝監督の作品是非追っていきたい…。
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