とうじ

空気人形のとうじのレビュー・感想・評価

空気人形(2009年製作の映画)
2.0
久しぶりに見た。
是枝の映画は、「ある題材に対して空虚な耽美主義で対抗する」というのが特徴である。それがどのような題材とマッチするかによって、映画の出来が変わっていく。「生ごみと死の匂いがむせかえる中で子供達が絶望の帝国を作って行く」という物語を扱った名作「誰も知らない」ではそのような形式によって、それが力強く唯一無二のものになっていたし、死後の世界を扱った「ワンダフルライフ」では独特の詩的な浮遊感を醸し出していた。しかし、それは「怪物」がそうであったように、繊細なテーマと対峙することからの迂回を許容してしまうこともある。
では本作の題材はなんなのか。それは、「命が宿ったラブドールが、映画オタクに恋をして大冒険する」というそもそもが空虚の塊であり、妄想の範疇を超えないファンタジーである。その軽さに耐えかねたかのように、是枝監督は人生の苦しさにまつわる鬱々としたエピソードをたくさん群像劇的に挿入していく。
しかし、それは悲劇の足し算としてしか機能せず、前提として空っぽな耽美主義的観点も、その見え透いた作為性によって効力を最後まで発揮せずに終わってしまう。
かといって、そのような形式への自己批判としても見ることができない、中途半端でかなり変な映画である。

でも、ペドゥナが人参を食べるふりをするシーンは可愛すぎて一瞬息止まった。
とうじ

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