櫻イミト

ニッポンの、みせものやさんの櫻イミトのレビュー・感想・評価

4.0
日本最後の見世物小屋一座「大寅興行社」と関係者を2001年から2011年にかけて追いかけたヒューマンドキュメンタリー。その生き様をメインに、仮設小屋の組み立てから実際のパフォーマンス、見世物小屋文化の歴史を紹介。

2024年初映画館鑑賞。ずっと観たかった一本(ソフト化、配信は不可)。子供の頃に「大寅興行社」の見世物を観たことがありとても懐かしかった。

主に監督の“私語り”のナレーションと一座の二代目代表代行・大野裕子さんへのインタビューで進行する。お峰太夫の火吹き芸、小雪大夫の蛇喰いは今はもう見ることが出来ない貴重な映像記録。後半には、かつてのライバル一座・小政興行部の齊藤宗雄さん、松坂屋興行社の西村みよこさん、みよこさんの兄で見世物学会理事長・日本仮設興行協同組合副理事長の西村太吉さんの証言により昭和見世物文化の全体像を解き明かしていく。様々な研究書は出ているが、当事者の肉声から伝わってくる事はとてつもなく大きい。

“怖いもの見たさ”が売りである見世物小屋の中身や裏側を見せてしまうことは本来ご法度なはずだが、大寅興行社がこの撮影を許したのは“自分たちが最後の見世物一座”という自覚と“消えゆくものを残しておきたい”という意志だった。そしてもうひとつ重要なことは、奥谷洋一郎監督との信頼関係だ。一座の人々の「洋ちゃん」との呼び方に親しい間柄が表れていた。

監督の“私語り”については否定的なレビューが多く見受けられる。何者でもない監督の主観よりも見世物を多く記録してほしかったとの意見には一部同意する。ただ本作のようなヒューマン・ドキュメンタリーの場合は、取材者と取材対象者との距離感や眼差しも重要な情報であり、まして社会の裏側と見られがちな人々が取材対象なので、表側の一般人である監督との向き合い方は興味深くマストな要素だと思われる。取材開始当時からの距離感の変化が少しでも収められていたらベターだった。

「大寅興行社」の見世物興行は昨年(2023年)11月の新宿花園神社酉の市でも開催されていた。ただし看板は「カッパ御殿」というもので、かつての怪しさは無くファミリー向けにソフィスティケートされていた。

※本編メモ
お峰太夫:初代蛇女、火吹き芸、大野裕子さんと同い歳
小雪大夫:蛇食(マキツギ)、鼻から口へ鎖を通す芸(サンガツ)
大野裕子さん:呼び込み「蛇女」アラダンカ(荒啖呵)
西村みよこさん:呼び込み「女ターザン」泣きごませ(泣啖呵)
ワールドオートバイサーカス:巨大桶の中を水平走行、北海道拠点

※2000年代の見世物小屋
入方興行社:入方勇さん(大寅興行社で修行、2010年に自殺とのこと)
劇団ゴキブリコンビナート(大寅興行社の主催で見世物興行~2022)
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