くるまえび

undoのくるまえびのレビュー・感想・評価

undo(1994年製作の映画)
3.9
「“待ってる”を、縛ったの。」

緊縛、繋縛、捕縛、固縛、束縛、呪縛…
“縛る”ことには、明確なスタートとゴールが見つけられない。それが物理的なものでも、精神的なものであっても、だ。

編み物の鉤針には、一番基本的な鎖編みというものがある。糸自身に針を引っかけ、輪っかを作ってさらにそこに糸を通して、まさに鎖を繋げていくのだけれど面白いのは、どこまで鎖編みをしたとしても、引っ張るだけで簡単に解けてしまうことだ。鎖編みは果たして、“縛” っているだろうか?

この物語で、萌実(山口智子)は「脅迫性緊縛症候群」という、あらゆるものを糸(漁の網くらい太い紐だったりもするが)でぐるぐる巻きにする病になる。その原因は、あなたに“縛”られているが故の精神的なものだ、と怪しい精神科医(田口トモロヲ)はマユミを病院に連れてきた恋人の由紀夫(豊川悦司)に告げる。

どんなにぐるぐる巻きに、解けないように糸で縛りつけたものでも、ハサミを使えば一瞬である。逆に、解こうとしたのに解けないから、ハサミで“切る”しかないということもあるだろう。しかし、“縛る”から“切る”というのは至極一方通行な関係である。対等に並べられたものではない。

『“好き”の反対は“嫌い”でなく“無関心”』という言葉は飽きるほど聞くが、それをここに当てはめるとすれば『“縛る”の反対は“解く”でなく“切る”』のような気がする。

萌実は由紀夫に、「ちゃんと縛って」と繰り返す。ちゃんと縛るって何だろう?“縛る”行為は求め続けてしまえば、終わりなどないだろうに。

この映画のみどころは、なんといっても山口智子の美しさに言い尽くせるだろう。世界の穢れも、美しさも何も知らない少女のようである。

ポスターとなっているこのキスシーンの映像美も素晴らしい。二人の後ろの、絡まった電線。人間関係だけじゃない、何かと色々なものに縛られなくちゃ、生活は成り立たないだろう。

映画を観終わって、劇中の台詞でも出てきた【がんじがらめ】という言葉と、その漢字を調べた。雁字搦め。【がらめ】は糸へんの方じゃないらしい。不思議だ。
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