MasaichiYaguchi

二郎は鮨の夢を見るのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

二郎は鮨の夢を見る(2011年製作の映画)
3.8
東京都中央区の数寄屋橋のオフィスビルの地下にある10席程の江戸前鮨店「すきやばし次郎」のドキュメンタリー映画。
「すきやばし次郎」はテレビや雑誌で紹介され、「ミシュランガイド東京」において2007年から2019年まで毎年三つ星を獲得した名店として知っている人も多いと思う。
私の様な鮨と言えば「回るもの」、または昼食にコンビニで買う人間にとって、一人当たり最低3万円からというこの店はとても敷居が高い。
この店の料金が高いのにはそれなりの理由がある。
アメリカ人監督によるこのドキュメンタリーを観てその理由に納得した。
この店で出される鮨は「匠の技と心の結晶」で、「なにも足さない。なにも引かない。」というCMの名コピーがあるが、正にこの鮨はそれだと思う。
この鮨を握る仕事ぶりを冒頭に店主の小野二郎さんが語るが、その一言一言が胸に響く。
その言葉は鮨職人だけでなくサラリーマンである我々にも通じる。
日本だけでなく世界的にも高く評価されているにも拘らず、撮影当時85歳の小野二郎さんは更なる高みを目指して前を向いて精進している。
本作品のタイトルは、寝ている時でも鮨のことを考えている小野二郎さんのことを指している。
その仕事に取組む姿にはただただ敬服するばかりだ。
また本作では、この偉大な父を持つ二人の息子の父に対する敬意や葛藤も描かれる。
子から親への思い、そして親から子への思い。
匠の技はマニュアルなどでは受け継ぐことが出来ない。
長い歳月の精進と日々の向上心、そして師への敬意と葛藤のなかで培われ、受け継がれていく。
この作品では、映像と共にクラシック音楽が奏でられているが、鮨の映像と全く違和感が無い。
それは丹精込められ、匠の技と心で握られた鮨が芸術品にも等しいからだと思う。
私もいつの日か清水の舞台から飛び降りるつもりで、この名店の鮨を味わいたいと思う。