あんじょーら

かぐや姫の物語のあんじょーらのレビュー・感想・評価

かぐや姫の物語(2013年製作の映画)
4.2
竹取の翁がいつも通りに竹藪で竹を取っていると、光る竹があります。そこで光る竹を割ると、中から綺麗なお姫様が現れ・・・という誰もが知っている、あの竹取物語の始まりです。




物語はおよそ知っているものですし、驚くような改変や、意外なエピソードが差し込まれているわけではありません。有名な竹取物語が最初から最後まで淡々と進みます。が、演出によって、今まで気が付かなかった、かぐや姫の、物語になっています。誰もが知っているのに、新たな意味を持たせるなんて、とても凄い事だと思います。




現代を生きる私たちの目からみるとかぐや姫の婚礼への拒絶は分かりやすいとは思いますが、とてもよく出来た物語だったんだな、と、後から気が付かされます。キャッチコピーに「姫の犯した罪と罰」となっていますが、罪と罰、と言ってよいのかまだ判断がつきませんけれど、姫にとっての罪と罰だったんだと思うと、ひるがえって、自分はどうだろう?と考えさせられる作りになっていて、そこが素晴らしいです。




竹取の翁の、相手を慮っているようで独りよがりな行動の罪と罰も、また重すぎるような気がします。もちろん、仕方がなかったんでしょうけれど・・・




まんが日本むかしばなしのような(このアニメーションは本当に子供の頃ずっと見てました!)、絵柄にしたことで、とても飲み込みやすく仕上がっていると思いますし、かぐや姫の声を担当された方もすごく良かったです、すんなり聞くことが出来ました。ジブリのヒロインを演じられる方のキャスティングはいつも素晴らしいですね。



劇中で何度も歌われる曲の、後半が明かされる時の短調への転調が、物語のたどり着く先を予感させます。そして主題歌「いのちの記憶」が良かったです。




今年公開された「風立ちぬ」を堀越 二郎という男性の、持てるもの、いわゆるブルジョワな人であるための、その持てるものというのは、知性だったり、お金だったり、権力だったりするんだろうと思いますが(後天的な、努力が報われるものが多い)であるならば、女性の場合は『美しさ』に集約されてしまうのが(より相対的には先天的で、努力が報われることもあるが、価値基準が多様)、より悲しみを誘います。だからこそ、この主人公2人が、それぞれ「生きる」ということに執着するのが胸を打つのだと思います。持ってしまっている者の苦悩を描いているという意味では同じテーマとも言えますし、性別は違う事で、対処法やら主体性の持ち方、そして生きにくさみたいなものの違いが如実に表れていると感じました。二郎は夢を追い、かぐや姫は育ての親のエゴ(しかし、それは刷り込みでもある!)に敷かれるという違いはあれど、同じテーマのように感じました。




かぐや姫の月に帰る、ということは、私は『死』ということだと思います。自分の死期を悟ったことでの激しい後悔。その慚愧の念から捨丸との邂逅、告白、そして思いのままに生きてきた捨丸だからこそ言える「そんなのどうでもいいじゃなか、逃げよう!」という強さ。まぶしいばかりの強さです。そして宙を舞い、思いの丈を語れたことでのカタルシスを描けばこそ、最後の説得力があると感じました。素晴らしいシーンだったと思います。




女性にも、男性にも竹取物語を知っているすべての人にオススメします。