タナカリオ

そして父になるのタナカリオのレビュー・感想・評価

そして父になる(2013年製作の映画)
3.9
大手企業に務める主人公・良多は何事も上からの目線で世界を見ている。息子に対しても、他人に対しても。家と職場の窓からの風景は、常に東京の街を見下ろしていることも、そんな良多の性格を象徴している。しかしラスト、息子と同じ目線で、同じ歩幅で歩く構図になる、そして父になる、この演出だけでもう一回観たくなる作品である。

この映画は、「子どもの取り違え」というドラマチックになりそうなテーマを扱っていながら、なかなか観客の思うようには事は進まない。「普通、血の繋がった子どもよりも、長年愛情育てた子どもの方がいいでしょ?何で迷うの?」と思ったり、「こういう展開になれば感動するのに」と思ったりする。
しかし観客の思うようには進まない。それは『他人の家族』の話だからだ。『家族』という存在は、他人には踏み入ることができない。自分の普通を、他人に押し付けることはできない。
この作品は世間から見た父親像ではなく、しっかりと
「野々宮良多」という1人の人間が父になる様子を描く。

正直、息子を手放す葛藤の中にいる尾野真千子のうしろ姿とか、ちゃんと人を殴れないところに人柄や人生を感じさせるリリー・フランキーとか、一見乱暴そうに見えて愛情たっぷりの真木よう子とか、目を奪われずにはいられないが、それでも「父親に見えない福山雅治が父になる」をブレずに描き切る。
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