のい

ぼっちゃんののいのネタバレレビュー・内容・結末

ぼっちゃん(2012年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

大森監督の最高傑作
大好き!!


星に一番近い町に派遣労働者として就職してきた梶知之。「イケメソ=基地内、ブサイク=基地外。彼女なし、友達なし、非正規社員」と、携帯の掲示板サイトに書き込むような、ブサイクでコミュ障ででもプライドが高くて、勝手な思い込みや被害妄想もひどくて、ほんとうにダメダメww強い人間にはついへつらってしまうが、内心では誰のことも信用していない。せっかく出来た友達とも、些細なことで喧嘩をしてしまうし、せっかく仲直りしても、女性を巡ってあっけなく友情を壊してしまう。殺人を犯している同僚に、無理やり巻き込まれるような形で共犯にさせられちゃうし、容量が悪くて卑屈で辛抱も足らないしホントにバカで…でもそんな梶くんの事が、映画を見ているうちにどうしようもなく愛おしく思えてくる… それはなんでだろうかと思う。

描き方はかなり辛辣なのだけど、どこか笑いを含んでいる。 あまりにあまりだと笑えてしまうっていう、アレだw でももういっそ、笑ってくれた方が救われるっていうくらいの状況が、この世にはある。 でもそれは、もう本当に「ギリギリの状態」を体験したことのない人間には、わかりづらい感覚かもしれない。。。
そんな、ギリギリの笑いがこの映画にはあるのだ。けれどその笑いは「冷笑」ではない。他人事のように突き放してはいない。どこか見てる方(撮ってる方?)も自嘲を含んだような笑いというのだろうか…「お前本っ当にダメ…」と言いながらも、どこかでその状態を理解できてしまう自分がいるのを知ってて、目が離せないような…そういう暖かさがある。
その眼差しは、例えもう既に何人もの人を殺してしまっている男、黒岩に対しても注がれる。黒岩が抱える…その瞳の中に潜む、どうしようもなくやりきれない「虚無感」や「寂しさ」や「絶望感」のようなものを掬い取る。 その虚無感や寂しさは、決して他人事ではない…自分の中にも確実にあるもので、それはどこかで暴れたがっていて、いつどんなきっかけで、そいつが暴れだすかなんか、自分でもわからないような…そんな気がしてくる。
彼らと自分とを分け隔てるものはなんなのか? 単に運がいいだけかも、しれなくはないのか? 大森監督は等身大の人間を画面に映し出すことで、そこにジャッジを超えた「何か」を見せてくれた。
無差別殺傷など、間違いなくしてはならないことだ。人の命を勝手に奪うなど、そんな権利は誰にもない。 けれど、時折どうしようもないほどに、破壊衝動が湧き上がることは、誰にでもあることなんじゃないかと思う…そうしたときに、意外とあっけなく人を殺してしまい、しかも意外とあっけなく見つからないままで済んでしまったりしたら…どうなるのだろう。。。?
どこかで「何故警察を呼ばないんだ」という感想を見たけれど、私自身が見た感想としては、あそこで警察には連絡しない、と思った。なぜだろう…どこかで既に「警察ざた」にはしたくないというモードが自分の中に芽生えていた…この映画の中で安易に司法の手に委ねられる形で描かれていたら、私は逆に暴れたかもしれない。 そういう方には思考がいかない「彼ら」だからこその、これは物語だと思ったからだ。
だからこそ、見えてくるものがある。溢れ出してくるものがある。
矛盾しあっていて、理屈が通らない…そんな、容易には言葉にすることが出来ない世界ってあるけど…そういう、言語を超えた感情や気配がこの映画には溢れている。
映画でしか語れない、描けないものがそこには描かれていた。だから、見て、それぞれが感じて、受け取るしかない。
ラスト近くの、車の中で連想ゲームのように無意味に言葉を呟き合う、梶くんと黒岩のシーンは秀逸。 空には降るような星。 そして…… 私は大森監督の映像がすごく好きなのだけど、本作品の中にも、幾つも脳裏に焼き付くような美しいシーンがありました。
だけどまさかブサイクさんが鼻血を流しながら必死な形相で車を追いかける姿を「美しい」と感じるとは、この映画に出会うまで思わなかった。。。
それに、写真相手に裸で○○をする人の背骨がこんなにも美しいと感じるとは。。。(爆) 今ではもうブサイクさんではなく、とってもチャーミングな水澤さんにすっかりヤラレてしまいました…
監督もおっしゃってたけどこの方、本当に背骨が異様に美しい… でもあの美しさを出せるのは、大森監督だからだろうな…と思う。まさに監督の持つ、独特の美的センスのなせる技だと思う、あの美しさを引き出せるのは。
また、岡田(黒岩)役の淵上泰史さんの演技には鬼気迫るものがあって、本気で怖かった。。
梶くんのお友達になる田中くん役の宇野祥平さんも凄く魅力的で、脆弱ゆえの優しさや人の良さがよく出てました。 映画上映には舞台挨拶も付いていて、その時に大森監督が「『愛のカケラ』を込めたつもりです」とおっしゃっていたんですが、まさに「愛のカケラ」のちりばめられた映画だと思います。
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