デンマークの印象主義・自然主義文学を代表するヘアマン・バングの自伝的な小説『ミカエル』を映画化した作品。
ドライヤーとしては『不運な人々』に続いて2度目のドイツにおける映画製作となった。
著名な巨匠として知られる画家クロード・ゾレは若き画家ミカエルを自分の絵のモデルとして使い、さらには自分の庇護のもとに置いている。ザミコフ伯爵夫人の肖像画を手掛けているゾレは、どうしてもうまく目を描くことが出来ない。だがザミコフ伯爵夫人に恋をしたミカエルは、ゾレの描けなかった伯爵夫人の目を見事に描いた。ミカエルは次第にゾレから遠ざかって行く…。
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ドライヤーの初期サイレント映画の名作で、眼差しの傑作映画である。
男女の三角関係という古典的モチーフでありながら、痴情のもつれというより、同性愛を耽美的に描いた作品である。
幾つもの視点が交錯するドラマとしてショットとクローズアップで成立させている。
画家が伯爵婦人の眼がどうしても描けないというシーン。眼を書くべき部分が黒く欠落している。映画における眼差しの欠落は、対象への愛情の欠落を意味するのである。目は口ほどにものを言う。
芸術家の孤独、若く美しい若者への愛にもがき、死が迫りくる中で苦悩する様は、ヴィスコンティ『ベニスに死す』を想起させる。
壮麗な室内空間の美術、白と黒のコントラストが美しい撮影。これらも、ヴィスコンティの美意識と完璧主義に通じる。
2024/03/16 ナゴヤキネマ・ノイ