Jeffrey

ホーリー・モーターズのJeffreyのレビュー・感想・評価

ホーリー・モーターズ(2012年製作の映画)
5.0
‪「ホーリー・モーターズ」‬

‪冒頭、 11人の人格を持つ男。
その名はオスカー。銀行家、物乞い、モーションキャプチャー、アコーディオン奏者、殺し屋、ギャング、家路に着く男。変幻自在、標的、武器、猿、喜びと欲望。今、夜明けから深夜までの1日をめぐる11人の物語が始まる…

本作はレオス・カラックスが監督、脚本を担当し、仏、独合作ドラマで、彼にとっては1999年の「ポーラX」以来の長編映画で、2012年の第65回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、パルムドール賞を競ったがハネケ監督の「愛、アムール」に敗れてしまう。

結局、カンヌではスタンディングオーベーションのみで受賞できなかったが、監督賞ぐらいは受賞できるかなと思ったがそれも無念でカルロス・レイガダス監督の「闇のあとの光」が監督賞を手にしてしまった。

本作品を見たが残念極まりない駄作で正直カンヌが迷走した一幕を観たと言う感じだ(個人的な意見)。

本作は冒頭から魅力的で、暗闇の劇場で数百人の観客が一斉に目を閉じてる描写で始まり、男のNOと言う声と船舶における汽笛の音が聞こえて来る。

続いて画面は寝室のベッドで寝ている奇妙なサングラスをしている男(監督)の描写に変わる。立ち上がり、窓から夜景を覗き込み、部屋の壁に木のプリントアウトされた壁をじっくりと眺め手で触れる。そこで隠し扉を見つけ(強引にこじ開け)奥へと進む。そこで1匹の犬が後を追いかける。照明が点滅し、波の音とカモメの鳴き声の中、冒頭の劇場の2階部分から彼は眺める。そこに赤ちゃんが廊下を歩き、その後から犬がゆっくりと歩いてくる。

続いて不意に窓ガラスから少女の姿が描写され、とある家族の日常が写し出される。ここで初めて言葉が発せられる。カメラは集中的にそのスーツ姿の男を捉え移動する。白いリムジンに乗り込み煙草に火をつけ一服する。耳につけたイヤホンで会話を始める。続いてカツラを研ぐ男性の描写からトンネルを抜け出すリムジンのショット、セーヌ川付近に駐車し、老婆に変装して物乞い(何故かロマ語を話す)を始める。

続いてリムジンはとある建物に到着し、全身黒いタイツを身にまとい不思議な空間へと移動する男を捉える。そこではアクロバットなアクションが繰り広げられ、クロマキーを背景に用意されたランニングマシーンに乗り、マシンガンを片手に銃撃する。そしてモーションキャプチャーを観客に見せる。このシークエンスでは赤外線を使った華麗なる演出がダイナミックで印象深い場面である。続いてその場に赤いタイツを着たブロンドのポニーテールした女性が現れる。2人は体を密着させ絡み合い、風変わりなダンスをする。次の瞬間そのクロマキーに写し出された3DCGのキャラクターと一体化し、破廉恥な踊りを披露する。

続いてリムジンの車内の中で男が本を開き、一言"メルド"と言う。片眼が白く、爪が伸びた醜い怪人に変装するオスカー。地下用水路を通ってモンパルナス墓地のマンホールから現れ緑色のジャケットを着こなし、道行く人を驚かせ、花束を食べ始める(ここで流れる音楽はゴジラである)。そこでエヴァ・メンデス演じるトップモデルが墓場で撮影している場面に遭遇するメルド(オスカーが変装している男)はアシスタントの女性に対し〇〇する。そしてモデルを誘拐し自分の穴蔵へと拉致り始める。

そこである一定の出来事が起こり物語は続いて、車に乗る男の描写に代わり、スパークスの"How Are You Getting Home?"がラジカセから流れ、到着したアパートの一室から流れるカイリー・ミノーグの"熱く胸を焦がして"が聞こえてくる。男は娘を車に乗せ2人は会話する。続いてアコーディオンを弾きながら夜のパリを大勢の人が連なり行進する描写へ。(ここが1番本作の見所で、個人的にはテンションが上る。と言うのもR.L.バーンサイドの"Let My Baby Ride"をアコーディオン風に流していて、俺このブルースもともと大好きな曲で、めちゃくちゃかっこいいから本家本元の音楽もぜひ聴いて欲しいがこの場面に流れるバージョンもとてつもなくカッコよくて、痺れる場面である。)

続いて新たに変装する男の物語に変わり、とある男性を殺害しに行く。続く土砂降りの中の描写、リムジンの中の描写、とある女性との会話、見知らぬ顔に傷のついた男との会話(ここでは重要な話をする)。 続いてシャンゼリゼ通りの西端、シャルル・ド・ゴール広場にあるエトワール凱旋門が車内から一瞬見え、そこで制裁と言う名のもとに射殺される出来事が起こる。

続いてベッドの上に眠り込む老人、そこに若い娘が話をかける。画面は真夜中の不気味な道沿いをリムジンのヘッドライトが照らす。そして車がぶつかり口論となる。相手側のリムジンの席に座るカイリー・ミノーグ演じる本人がここで初めて登場する。 2人は夜道を散策し語り合う。そこで彼女は涙を流しながら歌を歌い始める。

続く女性はショートのカツラを脱ぎ捨て、美しい黒いロングヘアーを見せ飛び降りするかの様な描写が映される…そして物語は佳境へと進んでいく…と単純に説明するとこんな感じで、21世紀に見た映画の中でもダントツに好きな作品の1本である。

こないだ発表した2010年からの10年間のベスト映画で入れていなかったが、本作も入れていい位だ。

それにしても役者のドニが11人に変装するのだが長らく彼の顔を見ているせいかどれもドニ自身にしか見えないものの特殊メイクの力がすごく老人から老婆、スキンヘッドの男まで全てをやり遂げている彼の役者魂は凄すぎる。

それと一瞬水彩画の様な演出やサーモグラフィーでパリの街を映す実験的な試みは面白い。映画全体は前衛的である。

物語の終盤のホーリーモーターズと言う建物内に数多くのリムジンが入っていく場面は印象的で、リムジンが〇〇する場面の帰結はシュールだ。

モーションキャプチャーの場面でアクロバットしているのは多分、ドニでは無いとは思うが、彼は監督の初期作品から出演している時にバク転などをしていた分、一瞬本人なのかなと思ってしまうがその点はどうなんだろう?

セリーヌ役のE.スコブは終始オスカーの周囲に必ずいる女性で、とても魅力的な存在だった。確かポンヌフの恋人でも出演していたがカットされてしまったいきさつがある為に、監督自身この作品で大いに出演させたんじゃないかなと推測する。

因みに本作では彼女が1番のキーパーソンだと個人的には思う。謎が多く、運転手なのかはたまたオスカー専属の秘書なのか…どのくらいの力を持っているのかなど色々と画面から推測できる。

去年亡くなられたのが残念だ。

さて、物語は監督自身が夢から目を覚ます出だしから始まり、映画制作の歴史を連続写真で紹介する。合計9つのチャプターで仕分けができる内容で、非常にメタファーの性格が激しい。‬

‪さて、ここから物語を説明すると、全11個のチャプターが入る。

まずはオスカー本人の下り。第2に物乞老婆の話、第3にVFX技術による卑猥な踊りをするタイツ姿の男と女、第4に怪人メルドの話、第5に内気な娘に失望した親子物語、第6にインターミッション(聖堂をアコーディオンで徘徊)第7に復讐する男の話、第8にターゲットの銀行員を暗殺する話、第9に裕福なヴォーガンと姪の話、第10にポンヌフの恋人のジーンとの再会(K.ミノーグとのミュージカル)第11に自宅に帰宅するオスカーの元に家族の姿。だが、彼らは〇〇に…とこんな感じで流れる。

取分け本作は個人的には最高レベルで素晴らしい古典映画(特にフランス映画)へのオマージュがかかった作品で好きだ。

これはシネフィルが愛してやまないカラックスに対しての監督からの礼返しなんじゃないかと思う。

よって意味わからないで終わらせては非常に勿体ない作品である事は数々映画を観てきた者には分かる一本では無いか。

聖なるアクションを意図としているホーリーモーターズは無数に輝きを放ってきた20世紀の傑作を21世紀に甦らした素晴らしい試みで美しく、儚いその一瞬の出来事を捉えた傑作なのである。‬

‪長々とレビューしたが、カラックス映画の中で1番好きかもしれない。‬


‪余談だが、黒澤明の作品へのオマージュとして最初は短編で作られていたそうだ。タイトルも違っていたようだ。‬


‪最後に…この集大成にJ.ビノッシュの姿が無いのが残念だ。‬
Jeffrey

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