河志麻二十日

海がきこえるの河志麻二十日のレビュー・感想・評価

海がきこえる(1993年製作の映画)
4.0
実際に甘酸っぱい青春を過ごしていない私のような人でも、過去を振り返って「あぁ、昔そんなこともあったなぁ」と、大した記憶でもないのに美化して語りたくなる気分にさせてくれます。
高知を舞台にしているので、ヒロイン以外はみんな土佐弁。土佐弁といえば五社英雄の映画に出てくる女衒とか遊女のどちらかと言えばアウトローな人たちが荒っぽく言い放つイメージでしたが、こういう青春の場面にもしっくり落とし込めることができる言葉だとは思いませんでした。とはいえ、未成年が高知弁を話しながら酒をグイグイ飲んでいるシーンでは、チラチラ五社映画がよぎります。
なんとも言えない青春感を大いに演出しているのが音楽です。とてもエモいです。特に予告編で使われていて、本編で何度も使われているフレーズがあるのですが、これがもう理由なしに胸をざわつかせます。予告編だけで何度観たことか。
そんな本作、テレビ放送の為に制作されたんだとか。ジブリの若手を中心に製作されたそうで、DVDには当時の製作スタッフが10年ぶりに高知を訪れるドキュメンタリーも収録されています。本作でいちばん残念なのは、ジブリ作品であるということ。他作と比べて霞むとか、そういうわけではありませんが、「宮崎駿と高畑勲の二大巨頭が世に放ったファンタジーの世界観」=「ジブリ」という印象がどうしても強いと思います。そのフィルターを通すことによって、「ジブリ作品に期待していたものと違う!」という印象を少なからず与えてしまっているのではないかと思うのです。しかし、この裏切りがいい方向に作用しているとも言えます。あからさまなファンタジーとかけ離れた本作は、ファンタジー全開と無味乾燥な大人世界との丁度中間に位置する「セミファンタジー」とでも言いましょうか、高校生の恋愛を扱っているわけですから、当たり前と言えば当たり前なのですが、子供が観たら面白くないけど少し大人な気分にさせてくれるし、大人が観ても忘れていた青春を不意に思い出させる効果があると思います。何を言っているのか、自分でも分からなくなってきましたので、そろそろやめます。
兎に角、ジブリ作品であるということ以外、非常に完成度が高く見応えがあり、大変面白い72分間でした。

土佐弁

音楽

ジブリ