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江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者のTnTのレビュー・感想・評価

3.9
屋根裏をさ迷う主人公「これは素敵だぁ」と一言。そしてピエロとの濡れ場を演じる奥様、それを屋根裏から覗き見る主人公の眼力。そして唐突にラッパのテーマが流れ出す。この出だしでもう最高。ザ・アングラである。

マグリットの魚人間の絵を描き人間にも絵を描く女、性的な快楽を求めて人を殺しまくる奥様、それに支える変態ピエロ、奥様の運転手で時折"人間椅子"になる男、女中に手を出す神父、そしてそれらを俯瞰してみる主人公。おわかりの通りまともな感覚の人間がいない。まさにエロ・グロ・ナンセンスである。江戸川乱歩の世界観が出た昭和初期のにおいも感じる映画だ。にしても、昭和初期にこんな世界観が流行っていたとは、日本も中々である。蛙食うシーンはブニュエル映画にまんま出てきそうなシュールさ。

そもそも映画という装置自体の覗き見的構図と今作品のテーマが合わないわけがない。主人公が覗く屋根裏の穴からの俯瞰視点が多様され、見てはいけないものを見ている感覚に陥る。主人公との共犯関係、まさに我々観客も主人公と同じ罪を犯している感覚になる。

平凡な日常に退屈する主人公は、屋根裏に行き彼らを俯瞰することで自らを保っていた。しかし、彼は一線を越え、人を殺すことに目覚める。また"奥様"と呼ばれる女もまた、日々の性的な生活から一線を越え、相手の男を殺していくようになる。彼らの生活が反復的描かれるのは、その平凡である日常をあらわすためだろう。彼らの日常を壊すのは犯罪と性行為だった。エロスとタナトスの融合というよりは、エロスの頂点が死と言わんばかりの内容だった。ラストに関東大震災が主人公と奥様が結ばれる瞬間を襲う。地震で瓦礫の下敷きになった二人の血が入り交じる。死して結ばれたということなのか。

"奥様"が相手の男を殺していくのはエロ・グロ・ナンセンスが流行った昭和初期の阿倍定事件が元になっているだろう。また今作品と偶然にも同じ年(1976年)、ほぼ同時に阿倍定事件を題材にした大島渚の「愛のコリーダ」が公開されている。ある意味第二のエロ・グロ・ナンセンスの時代でもあったのかもしれない。また、劇中で流れる「ツィゴイネルワイゼン」の楽曲も、後の鈴木清順の映画「ツィゴイネルワイゼン」(1980年)を思わせる。なんにしろ、この映画はかなりアングラムーブメントの先駆者的な立ち位置だといえるだろう。

演出のアングラ度と性的な描写の危うさ(人間椅子はヤバい)がすごい映画だった。音楽とかもかなり良くマッチしている。ラストがかなり怖い、まさに怪奇。
女中だけがずっと井戸の水を汲む。


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