半兵衛

変態家族 兄貴の嫁さんの半兵衛のレビュー・感想・評価

変態家族 兄貴の嫁さん(1984年製作の映画)
3.5
小津安二郎をパロディにするというより、周防正行が本当に小津安二郎になりきってポルノ映画を監督したような一作。それは風景や物を捉えたショットやローアングルや口調といった形だけではなく、家族の解体という小津が映画でよく取り上げていたテーマを軸に掲げ貫くことでそのスピリットが本物であることを証明してみせる。ラストの主人公一家の静かな崩壊とそれでも家にいる人間たちの佇まいなんてまさに小津的ではないか。でも小津本人ではないゆえに、どうしてもその美学を徹底することが出来ず変なショットや動作になってしまっているので珍妙な作品になっているのも事実。

小津スタイルで映画を撮るということに挑戦しつつ、エロシーンもしっかり撮影してお客へのサービスを忘れないところに後年エンタテインメントな作風で一世を風靡した周防監督の力量が垣間見れる。そして釣りの場面だったり、電車の映像だったりと小津を知っている映画ファンならニヤリとするオマージュに感心。

大杉漣の笠智衆を意識したかのような老け役も見所の一つで、最初は違和感があったけれど徐々に本物の老人のように感じられてくるところが名優たる所以か。身勝手な夫に振り回されても耐える妻という原節子的なポジションのヒロインを演じる風かおるも原のような女神の美しさは無いけれどそれがかえって情欲に悶える女性像としての説得力を与えてこれはこれでありかなと(あと何よりあのバスト!)。

嫁いだ一家は変態ばかりでみな身勝手に性癖をこじらせて家から離れていったけれど、そんな誠実な奥さんも結構な変態さんなので平穏な時間が家庭に流れるというふざけたラストなのに、何故か納得させられるのは確かな小津ショットによるものかそれとも周防演出のなせる技なのか。

これまた斎藤高順をパロディにしたような周防義和のスコアも変な作風によく合っている。
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