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ガーゴイルのBONのレビュー・感想・評価

ガーゴイル(2001年製作の映画)
4.1
同年のカンヌ国際映画祭で退場者や失神者を続出させ、一大センセーショナルを巻き起こした招待作品。

メディアは「挑発のためだけに作られたヨーロッパのゴミのようなアートハウスの衝撃作」だと批判。人間の根底にある欲望やボヤけた感情の境界線、ドニの描き続ける不動のテーマに加え、美しく仕上がっているが故に残念。

キャストはヴィンセント・ギャロやベアトリス・ダル、アレックス・デスカスなど、ドニの作品に多く出演する独特な俳優を迎え入れ、血まみれの愛とセックス、カニバリズムが描かれる。

アメリカから新婚旅行でパリへ赴いた一見幸せそうに見えるシェーンとジューン。しかしシェーンは性行為中に相手を喰い殺してしまう奇病を持っており、病気を治す糸口を見つけるために、元同僚のレオ医師の元に会いに行くという物語。

シェーンを演じるギャロの性欲を抑えてギラついた眼光とナヨナヨした困り顔。病気が手遅れの状態になり、レオ医師に監禁されている妻を演じるベアトリス・ダル。血まみれになり、野獣のように食欲が滾る姿と希死念慮。同じところから生まれる「食べたい」という感情の対峙方法が2人とも対極的で目を見張る。

愛と欲望、殺意の境界線は曖昧で説明しようがなく、どれが本当の感情なのか分からない。誰しもが飼っている怪物が姿を現し人を食ってしまう。ティンダースティックスの静かなサウンドトラックがメランコリックなムードと不穏さでフィルムが覆い尽くされる。

生かすも殺すもできず妻を閉じ込める医師、死にたいのに肉体を求めてしまう妻、最愛の人を食い殺さぬように大事にすること自体が最愛の人を傷つけてしまうギクシャクとした新婚夫婦。 皆が歪んだジレンマを抱えゆるやかに時間が進んでいく。 メイドが不憫だった。

新婚夫婦はうちへ帰ることができるのか。全ての本心や欲望を外側にさらけ出すことも、心を閉じて1人で対話をすることも、結局のところどちらも苦しくて泣きそうになる。仕事で悩んで気分が落ちている自分と重なるような作品だった。
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