あんじょーら

言の葉の庭のあんじょーらのレビュー・感想・評価

言の葉の庭(2013年製作の映画)
4.2
はっきり言って不勉強の為に全然知らなかった新海監督、初見です。たまたま新作映画のチェックをしていて目にとまり、秦基博が曲を歌っている、しかも大江千里の「Rain」のカヴァーということで気になって観に行きました。




靴職人を目指すタカオは15歳で高校1年、目的意識はあるし何処か達観しているように見えても幼さも残しています。タカオは通学に電車や地下鉄を使うのですが、6月の雨の日の混雑に嫌気がさして、新宿御苑に向かいます。そこで朝からビールを飲む年上の女性と出会いますが・・・というのが冒頭です。




僅か46分の作品なのに、非常に感情的に揺さぶってくる作品でして、良かったです。続けて「秒速5センチメートル」も観賞したのですが、こちらにも同じような手法が取られていて、グッときました。



日常的に目にしている様々な風景、それも特に空、雲、月に表情を与えるのが(それでいて受け手の自由度も残っているところがまた!)上手いです。その上今回の「言の葉の庭」では『雨』という存在の扱い方が滅法上手くて、同じ雨粒が存在しないのと同じように、表情を変え、時に激しく、時に優しく、演出されているのが絶妙です。キャラクターの背景の描かれ方も大人びているタカオが、何故大人びて見えるのか?を説明しないのに理解させる上、だからこそ、という部分があって丁寧だと感じました。謎めいて見える年上の女性と約束に無い逢瀬、という非日常への扉の開け方のリアリティがあり、徐々に気分、相手への想い、自己の未熟さなど、様々な感情が盛り上げていくのが上手いです。



そして、最後に曲が流れるんですが、素晴らしく新鮮に聞かせるんですね。何気なく聞いていた歌詞の意味を、情景を、紡ぎ出された言葉を、もう1度意識させ、確認し、盛り上げます。ひょっとしてこの曲のためのストーリィを、構成を、新たに歌詞を解釈させる為に、この2人なら、という風に製作したのではないか?と思わせるくらいの完成度です。いちいち歌詞の言葉にシンクロさせる風景、構図、動き、素晴らしいです。



新手の、新解釈プロモーション・ビデオ(今でもMTVって言うのでしょうか・・・)製作者!



秦基博、大江千里、新海誠が好きな方にオススメ致します。





あと「秒速5センチメートル」も、もちろんイイです。タイトルも素晴らしいですし、3話の連作短編集なんですが、1話の導入としてのジュブナイル感覚の瑞々しさ、2話目の、新たな視線の導入、そして最後3作目の音楽の入り方、素晴らしいです。誰しも過去にすっぱい思い出があると思いますが(ええ、ダメ人間の私でさえすっぱいし、しょっぱいっす、イタいっす・・・)、そこをエグッテきます。



こちらの山崎 まさよしが唄う「One more Time, One more Chance」が、素晴らしく新鮮に聞こえます。この歌詞を私だったらこういう2人の間に起こった出来事を経験した、この男に沁みる曲、として再定義して、尚且つ、感情を揺さぶる曲や歌詞とのエモーショナルな同調でたたみ掛けてきます。この同調性は本当に考え抜かれていて、素晴らしい。