しおまめ

永遠の0のしおまめのレビュー・感想・評価

永遠の0(2013年製作の映画)
2.0
このご時世だから、この作品がどうも引っかかって仕方がない。
公開して一か月ぐらいしてからの2014年の一月頃に見ました。祖父と一緒に。
祖父は戦地には行っていなかったので、戦争映画といえば戦後のアメリカ的娯楽作のほうを好んで見る。なので反戦だとか反核だとかのメッセージ云々を強く主張するようなことはなく、
ただただ「当時の日本はおかしかったからね」と語るのを聞いてました。
原作は百田さん。やしきたかじんにまつわる本を出して、たかじんの娘さんと揉めたとかなんとかで色々と問題になった人です。
そんな人と「Always」でおなじみの山崎貴監督の組み合わせが、この作品。

物語は当時零戦の凄腕パイロットで名を馳せた宮部という人物の足跡を追う現代の孫たちが、
宮部は何故戦闘に消極的だったか、
何故否定した特攻に参加したのか、
という疑問を当時の戦友たちから聞き込みをしていき、徐々に宮部の全容が見えてくるというもの。
単刀直入に言ってしまうと「戦争美化」「特攻美化」の作品です。

というのも、よくこの映画を語るときに出てくる意見としては「物語の中で特攻は否定している」とか、
「美化して描いてはいない」とか語る人がいますが、全くその通りです。物語の中では戦争、特攻は美化していません。
問題なのはそれを娯楽に特化して提供してる点です。
この映画を見て戦争がどうだとか特攻がどうだとか語ってはいけません。語る以前の問題として、戦争が戦争として描かれていないんです。
空戦に参加せず、自身の隊の被害を抑えることに専念する宮部の考えとか戦後の“模範的人間”そのもので、
宮部の心の中では戦争という同胞が敵に殺されるという状況を認識していない。あまつさえ空戦の達人という設定まで用意させるヒロイズム的要素を引っ張ってきて戦闘に参加しないことに対する「かっこよさ」を演出している。
劇中ではそんな宮部を「臆病者」と言われている設定ですが、

臆病だとか正義だとか、そんな範疇に嵌るような状況ではないのが戦争なわけです。

戦争は「悪」です。殺し合いは嫌です。
けれども抑止としての兵器があり、民族対立、宗教対立というものがあり・・・火種はどこにでもあるうえ、どっちに転んでも己が「正義」なのです。
正義と正義がぶつかり合うのが戦争なわけです。日本はただひたすらに戦争を「悪」と見据え、しかし大事なことを忘れています。
戦争によって平和がもたらされていることを。
日本が核を持たないのは条約だとか被爆国だとかではなく、単に代わりに撃ってくれる国がいるからです。戦争前提にした中で平和を取り繕っているというのが世界中に蔓延る抑止論の実態です。
宮部が実行した空戦に参加しない意志というのは、戦争という状況下を甘く映し出しています。目の前で仲間が死んでいく姿をただ見るだけというのは”戦争を負ける方向に向かわせている”と同じです。
戦後日本が他国に乗っ取られる様を想像していない。
「勝たなきゃ国が滅びる」
「けれども殺し合いは嫌」
その相反する思いが交錯する不条理な状況が戦争なのです。戦争が始まってしまったら「良い」「悪い」という判断は出来ません。やるしかなくなってしまうんです。
だから戦争しないようにするんです。
この映画ではその葛藤が描かれず、ただひたすらに宮部は「生き延びる努力をしろ!」と大声で言いますが、皆本心では生きたいのは当たり前で、それを抑圧している国の実態があっただけの話。宮部のこの台詞は本当に中身空っぽ。
ひたすらに「戦争は悪である」と描いているだけであり、その不条理さに関しては一切追求しない。
「悪であるからこそ否定すべき」という考えは本来は開戦前の考えであり、
開戦してしまったらもう終わりなのです。
宮部をまるで平和主義なヒーローのように描いていますが、ヒーローでもなんでもない犠牲者なんです彼は。根本的に間違っています。
桑田佳祐が歌うテーマソングなんかもそうです。ラストシーンの狂気に満ちた宮部の顔の後に掛かる歌は、本来こんなバラードではいけないのです。
もっと暗く、恨み辛みにじみ出るものでなければいけませんが、完全に泣かせるようにしています。

そんな甘い戦争描写に助力しているのが山崎貴監督特有の「魅せる」演出。
轟沈する艦を遠景で映し出し、カメラの傍をかすめ通る様に通り過ぎるゼロ戦といった具合に、ありとあらゆる場所で魅せようとしています。
コメディタッチの「Always」ならまだしも、戦争をテーマにしたこれでもそういった純エンタメ作品的なことやらされると物語内で起きた事の重大さを忘れさせます。
ようはこの映画、泣かせたいんです。
「戦争とはこういうものなんだ!」とかそういった思いは無く、ただひたすらに泣かせたいんです。
終盤、取ってつけたような宮部の妻の恋模様とか、別に無くてもいいんです。主題が「戦争」であるなら。
泣かせたいから入れたわけです。


別にこの作品、実際の戦争の話にしなくても良くて、
空想ファンタジーの戦争の話にしたほうが評論家が口酸っぱくして言った「戦争美化」の指摘を回避できたんです。
それをしなかったってことは・・・・現代史として描いた方が売れると思ったんでしょうね。そういうエンタメ作品ですコレは。
面白いのは百田さんの事件が起きてから、この映画の評価がガラリと変わったこと。公開当時は絶賛&絶賛だらけだったのに・・・。
しおまめ

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