半兵衛

わたしのSEX白書 絶頂度の半兵衛のレビュー・感想・評価

わたしのSEX白書 絶頂度(1976年製作の映画)
3.7
病院の採決係を務める女性がふとしたことで娼婦になり裏社会へと転落していくという特に山場もない平坦なドラマを、赤を基調とした映像や水が滴り落ちる音、主人公の女性と弟の近親相姦的な関係を通して繊細な女性の満たされないがゆえに日常をはみ出してゆくエロスが画面に展開され曽根中生監督にしか出来ないような奇妙で濃厚な映像世界に仕上がっていて圧倒された。

師匠の鈴木清順がそうであるように、曽根監督も随所に変な演出=観客を驚かせるため通常の演出を放棄する演出を挿入するためなめらかではない砂を噛んだような奇妙な感覚がもたらされるが、これが癖になってくるか辟易させられるかで評価が違ってくるはず。本作で言えば終盤での三人プレイがそれで、お客さんを興奮させるため工夫していることは認めるがあまり濃すぎて飽食気味になってしまう。

病院で青年が看護婦の裸を想像するシーンを、多重露光で表現したり、女性のエロスを強調するラストカットなど斬新な映像表現も見所。

でも弟と友人の関係性や主人公を娼婦へと引きずり込むやくざなど、彼らのドラマが女性のドラマと結び付いてスパークするのではなくそれぞれがバラバラの状態のままで映画が終わってしまうので見終わったあと物足りなくなるのも事実。そうした曽根監督のお客を満足させるドラマをやりたくない問題は最後まで解決することはなく、80年代になると頑なに演出方針にこだわる監督とお客の間に距離がどんどん生じていきやがて業界からの失踪へと繋がっていく。

ヒロインを演じる三井マリアは中々の美貌でスタイルも良いが、若干台詞廻しが固いのが気になる(スタッフの話によると訛りが酷かったことが原因らしい)。ちなみにこの作品で助監督として働いていた根岸吉太郎監督から本作のエピソードを聞いたことがあるのだが、三井は曽根監督の要求の厳しいハードな演出に耐えられなくなり途中で現場から失踪して行方をくらましてしまったとか。結局スタッフが見つけて連れ戻し撮影は再開したものの、彼女が映画出演が本作のみになったのはそういう苦い事情があったからかもしれない。
半兵衛

半兵衛