Tig

わたしはロランスのTigのレビュー・感想・評価

わたしはロランス(2012年製作の映画)
4.9
一方にとってはただ女性として生きたいだけ。
一方にとってはただ男性として生きて欲しいだけ。

どちらも悪い事をした訳ではないし、お互いを確かに愛している。パートナーや家庭があるなかでも常に心に互いを見ていた二人の描写。それでもそれ以上に自己愛の強さが勝り、毎回喧嘩別れとなってしまう。絶対に互いが歩み寄れない境界線は突き詰めると性的多様性の問題にすり替えたお互いの自己愛の強さに行き当たるように見えました。

物語の終盤再会する二人。今度こそはという微かな期待もまたロランスの女性として生きる決断を巡り口論に。
「女性になっていなかったとしても別れていた」「地上に戻ってきてロランス」

トイレに行く振りをして裏口から出て行くフレッド。トイレに行っている間に正面口から出ていくロランス。
本作は合計3回の別れの描写がありますが終盤のこのシーンは何故か悲壮感がなくお互いにやり切った清々しさを感じさせます。

ラストシーンは二人の出会いのシーンに遡って終わる。。

演出や音楽がさすが洗練されているように感じます。また4対3の画面の構図や船の窓から覗く正方形の構図など映像の切り取り方もこだわりが強く、強調したい心理は空からカラフルな洋服が降ってくる描写に置き換えて表現する等抽象的な描写も健在でヌーヴェルバーグ的な先鋭性を意識した映画だと思いました。(本人はそんなに意識していないそう…)
反面、成熟しているだけに過去作と比べて演出の「狙ってる感」は強く、若干くどさも感じられました。もとより3時間の長尺で二人の恋愛模様を延々とリアリティを持って描く監督なので「ねちっこさ」も持ち味のひとつではあると感じます。
世界観と音楽やキャストが抜群に噛み合っているので気障だけど、カッコいい映画だと感服する思いでした。
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