不思議と懐かしさが込み上げてくる映画だった。
羽田空港近くの川で、野良犬たちと船上生活をしているおじさんを撮ったドキュメンタリー。
この地域にも船上生活にも馴染みはないのだけど、なぜだか懐かしい気がした。
おじさんに邪気無く話しかけたり、かと思えば橋の上から石を投げたりする子供たちの姿を通して、小中学生くらいの時に近所の公園に住んでいたおじさんを自分がどう見ていたか思い出したりした。
懐かしさを感じるのは、そういうところもあると思うけど、それ以上にこの映画が、失われてしまったものや、これから失われてしまうであろうものを、写した作品だからなのだろう。
全体に儚さや切なさが漂っていて、懐かしさと同時に寂しさも感じていた。「ただ生きる」ことの如何に難しいことかを改めて感じさせられる映画でもあった。
川の上の生活を写す画の美しさはアピチャッポンなどタイの監督のそれを思い出したりもし、川での生活を引き上げ湿地のような場所に捨てられた廃船の中に居を移したおじさんを映す最後のシーンの、荒涼とした美しさはペドロ・コスタの映画も想起させた。
画の美しさもさることながら音の設計もかなりこだわられているように見えた。川の音、風の音、雨の音、きしむ船の音、エンジンの音、遠くの工事の音、犬の鳴き声、鳥や虫の鳴き声などの協和がまた懐かしさを喚起させるのに一躍買っていたにも思う。
そして上映後の話を聞いても、つくづくドキュメンタリーは編集によって完成されるものなのだなと思った。面白い。
【一番好きなシーン】
・橋の下でおじさんがエンジンを直すシーン。
・公園のおじさんたちが、船のおじさんに何が起こって今どうしてるか話すシーン。
・おじさんがなくしたジャンパーを探しに川を下るシーン。船の墓場のような場所。
・最後の湿地。