笹井ヨシキ

パトリオット・デイの笹井ヨシキのネタバレレビュー・内容・結末

パトリオット・デイ(2016年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

ピーター・バーグ監督作ということで鑑賞して参りました。

「ローン・サバイバー」「バーニング・オーシャン」に続くマーク・ウォールバーグと組んだ実際の事件を題材にした映画の3作目で、今作も犠牲者に哀悼の意を込めながら、目の前のやるべき事を誠実にこなしていく事のヒーロー性を描いていて良かったです。

ピーター・バーグ監督の作品は
① 平穏で幸せな日常
② 突如としてその日常が歪められる惨劇
③ 惨劇にうろたえながらも〈対応〉していく仕事人のヒーロー性
という3幕の強固な型で構成されていると思うんですが、これって普通に生きている人間に根差した勇気を鼓舞する力強さがあるんですよね。

特に大事だと思うのは〈対応〉という部分で、例えば戦争映画とかアメコミヒーロー映画という映画の登場人物たちは、事が起きる前に敵と戦う覚悟というものがありますが、普通の人々はそんな覚悟しておらず、大半の人間は起こった事件や事故に対してすぐに戦う気にはならず、狼狽し茫然としてしまう人ばかりだと思います。

しかし覚悟をする余裕のない我々はそこから奮起し、自分のできる精一杯の事を探して一度揺るがされた日常を取り戻すために〈対応〉していく強さあるし、その強さこそ誰もが持ち得るヒーロー性なんだとピーター・バーグ監督は描こうとしていて、とても熱いんですよね。

今作も爆弾テロが起きるまでのそれまでの日常描写の積み重ねと爆発による人々の反応で恐ろしさをより生々しく伝え、そこに〈対応〉していく人々の強さや我々一般の人々にも根差しているのではないかと感じるものがあり、胸が熱くなりました。

終盤のトミーと同僚の会話で「未然に防げたと思うか?」という同僚の問いに対するトミーの答えは、同じような事件・事故に巻き込まれるかもしれない我々に対するピーター・バーグ監督のエールであり、今作のみならず彼の監督作全てに共通するメッセージだと思いました。

爆弾テロが起きた時にどういう捜査行われるのかというハウツーものとしても面白く、倉庫のようなだだっ広いところに犯行現場を丸ごと再現し、記憶と監視カメラ映像を頼りに犯人を追っていくというのは「結構アナログだな!」と驚きましたねw

役者陣も全員素晴らしかったんですが、特にケヴィン・ベーコンが良かったです。
テロ認定を初めは渋っていたのに子供の亡骸を見た途端すぐにテロ認定するシーンは、即座に〈対応する〉カッコ良さを感じられるシーンだったし、犯人が危険人物リストに載っていたのに見逃していたことを後悔するシーンも、今作のテーマと合致する〈未然に防げなかったのか?〉という葛藤を短く示していて素晴らしかったです。

実際のアーカイブ映像を違和感なく挿入したドキュメンタリックな映像の見せ方も好みで、「本当にあったんだ」と思わせるような工夫が随所に見られました。

あえて言うなら犯人の描写が終盤に行くにつれて陳腐化してしまうということでしょうか。

群像劇の一部に犯人も描写するというのはとても良いところで誠実だと思うし、序盤の彼ら兄弟の貧しい生活描写は何か肩入れすべき点があるのかと思わせるんですよ。

でも結局後半では彼らは幼稚で浅はかなイスラム過激派という描き方しかされず、なぜこういったテロが起きたのかというところには肉薄できていない。そこまで教えろというのは図々しく本当にわからないんだからしょうがないのかもしれませんが、我々の彼らに対する無知はテロの火種かもしれないので何か監督なりに解釈を付け加えても良いのかなと思いました。

全然上手く書けなかったですが、〈対応〉のエンターテイメントの勇であるピーター・バーグの集大成の作品だと思いました。
次作も大いに期待したいと思います。
笹井ヨシキ

笹井ヨシキ