素晴らしかった作品。
中上健次原作で、神代辰巳監督作品とすればどのような着地点に至るのか不安ではあるものの、神代辰巳という人間はさまざまな文学に造詣が深く、その掘り下げにはいささかの浅さも感じさせなかった。あからさまにギャグになってしまった描写ではゲラゲラ笑ってしまったが、それもまた、ご愛嬌。
石橋蓮司と宮下順子の、拾う男と拾われる女、求める女と求められる男というとてもすっきりと雑味のない構図の中に、三十代を過ぎた生熟を待つセックスの悲喜交々がこれでもかと詰め込まれている。
そこに対比されるのは亜湖と阿藤快の行き当たりばったりな、しかし張り裂けそうな孤独感を寄せ合う"若さ"によるセックス(あまりしないけど)である。
要所要所が名言だらけ、名シーンだらけ。かっこよさ、くだらなさ、しびれを覚えたりめまいを覚えるような空気、セリフ、その全てが、性的鬱屈や暴力性というものでまとめ上げられ、いつ爆発してもおかしくないような危うさカメラワークから持ちながら、それでいて繊細な演出。
石橋蓮司が惚れてしまった宮下順子を阿藤快に寝取らせているあいだ、間が持たなくて近くにあった三輪車で駆け抜け、ポルノ映画館に行き売り子と女に出会う。その女に性的な接待を受けるが、そこで一生懸命我慢するのだ。その我慢は、イったら何もかも忘れる、イったらきっと好きじゃなかったんだろう、とか、そういう非常にくだらなくて愛おしい弱さが詰まっているが、宮下順子とのいつもの体位をされた途端、張り詰めた線が切れるように射精してしまうところ一つとっても、セックスという行為そのものがこの物語に非常に機能しているかがわかる。
ロマンポルノは、ポルノでもロマンでもなく、ロマンポルノだし、それだから独特で、非常に胸を打たれるものがある。神代辰巳は素晴らしい。