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ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン/ブリュッセル1080、コルメス3番街のジャンヌ・ディエルマンのsonozyのレビュー・感想・評価

5.0
ベルギー出身の女性監督シャンタル・アケルマンの長編デビュー作。
3時間20分という長さで躊躇してましたがやっと見れました。
タイトル通り、ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地のアパートに高校生の息子と二人で暮らす主婦ジャンヌ・ディエルマンの日常(3日間)を追う映画。

アラン・レネ監督の『去年マリエンバートで(1961)』で有名なデルフィーヌ・セイリグが演じるジャンヌ。6年前に夫に先立たれた未亡人で、テキパキと家事をこなす几帳面な女性ですが、大きな謎・秘密は、息子を学校に送り出し、買物や夕食の準備を終えた午後、毎日違う男がやって来て寝室で売春をしていること。

上品で聡明そうなジャンヌがなぜ普通の仕事でなく、自ら自宅での売春を始めたのか。
ちなみに男から得たお金は、リビングのテーブルの上の大きな陶器の壺みたいなのに入れていて、息子に渡す小遣いや、買物に行く時などそこから取り出します。

テレビのない小綺麗に整理された家は、小さなキッチン、ジャンヌの寝室、リビング(息子はここのソファがベッドに変身するやつで寝てる)、バスルーム。贅沢をしないミニマルな生活。
会話も必要最低限。サントラもなく(少しだけラジオの音楽あり)、生活環境音のみ。ほぼフィックスなカメラの長回しで、ジャンヌの生活を覗き見続けるような3時間20分ですが、なぜか目が離せなくなる不思議。

息子以外の他者との関わりは、同じアパートに住んでいるらしい女性の赤ちゃんを短時間見てあげて、戻ってきたその女性の話を聞いてあげる、毎日決まった買物の店員(雑談などはしない)、カナダに住む姉との手紙のやり取り程度。町で知り合いに出会っても挨拶のみで、面倒な人間関係はなるべく排除しているように見える。

起床から就寝まで、息子の身の回りのあれこれ(食事はもちろん、勉強のサポート、靴磨き、セーターの手編み、夕食後の短い散歩など)、スープとメインプレートのほぼお決まりの夕食、その食材の買物などに出る時に往復するアパートのエレベーター、確認する郵便受け。
唯一の休息は、買い物帰り立ち寄るカフェでの短時間のみ。

このルーティンな1日を、全て自分の意志で完璧にこなしていることに満足しているように見える1日目のジャンヌ。売春のシーンは出てきませんが、ベッドカバーの上に1枚のバスタオルを置いてそれが乱れない程度の行為に制御していることが伝わります。

ところが、2日目、3日目と、そのルーティンが少しづつほころび始め・・・
(髪の乱れ、服のボタンのかけわすれ、心ここにあらずな表情でのジャガイモ皮むき、調理ミス、カフェの定位置が他の人に取られている…などで彼女の心の乱れがじわじわと伝わってくるのが素晴らしい)

ジャンヌは、小さいけれど世界(自宅と息子と買物/散歩する自宅周辺)を自身のコントロール下に置いた生活を送ること=男性に支配されない生き方を選んだ女性だったのかと気づくころ・・・衝撃のラスト10分へ・・

シャンタル・アケルマンさん、25歳でこんなすごい作品を撮っちゃったんですね。
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