あんじょーら

ある過去の行方のあんじょーらのレビュー・感想・評価

ある過去の行方(2013年製作の映画)
3.8
あの「別離」の監督の最新作、これは劇場に観に行かないわけには参りません。



空港の出口で元夫でイランで生活しているアーマドを迎えるマリ。二人は正式な離婚手続きを行うために翌日裁判所に向かう事になっています、既に別れてから4年が経過しているのです。マリには新しい恋人サミールが居ますが、マリの娘であるリュシーはサミールになじめず、マリは手を焼いているのです。マリから元夫であるアーマドにリュシーと話をしてくれと頼まれるのですが・・・というのが冒頭です。


名作「別離」も傑作でしたが、今作も素晴らしかったです。


本当のところ何が起こったのか?という不明を探っていく事になるストーリィでして、観客も、登場人物たちも、既に起こってしまった「ある過去」を明かしてゆくサスペンスフルな作品です。また、そのサスペンスに、登場人物の感情の揺れ、生活、家族の中での役割など、様々な事柄を扱っています。


別れた家族とコミュニケートする、というのはとてもハードな出来事だと思いますし、まして新たな恋人がいる元妻の家に行く、というのもヘヴィだと思います。しかし事情が事情なだけに、避けて通れないですし、まして元家族の悩みである「秘密」を聞いてしまった事で関わってしまう展開は見事なサスペンスになっていると思います。


元夫と元妻のすれ違い、現恋人との意見の食い違い、娘との葛藤、小さな子供との関わり、ぬきさしならないある秘密を抱えたティーンエイジとの関係、徐々に明かされる新事実、しかし明かされた新事実との食い違いを見せ・・・サスペンスもさることながら、畳みかける展開に釘づけになります。


それぞれを演じる方々の演技も自然であり、まるでドキュメンタリーを見ているような感覚にさえなりました。こういう所は前作「別離」と同様に素晴らしいです。「別離」では本当に誰が悪いわけではない、というどうにも持っていきどころのない感情を


既に起こってしまった変えられない出来事と向き合う事を学ばせる映画とも言えます。


また、明確な判断や態度では示せない何かを飲み込む事の苦さ、をも学べると思います。


淡々とした生活の中で積もってゆく澱のようなモノを見事に掬っていると思いました。


それでも、私は今作よりも前作「別離」の方が好みの映画でした・・・


あくまで個人的意見ですけど、今回も家族の話しですが、「別離」の場合のどうしようもなさは「ブルー・バレンタイン」のどうしようもなさに通じる印象があります。だからこそ、私なら、とかこの場面が、とか考えを巡らせる楽しさ、誰かと話したくなる面白さがあると思います。が、今回の主要登場人物たちの中では、どうしても心情に寄れない人物がいまして・・・私はどうしてもマリの性格が全ての元凶に感じられてしまいました。感情の浮き沈みが激しく、彼女がすべて悪いわけではないとは思いますが、あの態度で示されると、もうすべてがどうでもよくなってしまいます。アーマドだってサミールだってよくない部分大きいですし、アーマドの最後の告白の扱いなんて当然なんですけれど、でも、マリのキャラクターの問題でしかないように感じられてしまいました・・・


そして、もう1点、明かされる秘密が二転三転していくのが、あまりに積み重なり過ぎるようにも感じられてしまいました。もう少しコンパクトで良かったと思います。


家族に興味のある方、映画「別離」が好きな方にオススメ致します。