イチロヲ

黒薔薇昇天のイチロヲのレビュー・感想・評価

黒薔薇昇天(1975年製作の映画)
5.0
性の営みに芸術性を見いだそうとしているブルーフィルム監督(岸田森)が、自暴自棄に陥っている富裕層の夫人(谷ナオミ)を口説き落としていく。非合法ポルノに携わる人間の種々相を描いている、日活ロマンポルノ。藤本義一・著「浪花色事師(ブルータス・ぶるーす)」を原作に取っている。筆者は原作を読了済み。

「人間の性行動こそが究極の芸術である」と理屈を捏ねている男が、その拗れた性観念を夫人にぶつけていく。びっこを引きながら歩く、エセ芸術家を岸田森が熱演。根負けする谷ナオミのイヤイヤ演技があまりにもエロい。

前半部では、エロ事師の作業風景をドキュメンタリー風に描写。エロティックな音声素材を集めるシーンと、天満橋松坂屋の屋上ゴンドラで夫人に詰め寄るシーン、そして撮影隊に帯同する女優(芹明香)のサイケ柄ファッションに関心が高まる。

「写真は、本物は本物のままに、嘘は嘘のままに写る。そこが良いのだ」という台詞を岸田森が吐露するのだが、ゲリラ撮影では通行人がカメラを見ているし、絡みのシーンでは腰の位置が合っていない。映画と現実のメタ構造から「映画は映画である」を暗喩させていく手法。当時のロマンポルノ裁判に対するアンサーを推量すべし。
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