森崎

小さいおうちの森崎のレビュー・感想・評価

小さいおうち(2013年製作の映画)
4.0
言葉にならない感覚がどっと胸を渦巻く。

ノートに綴られた自叙伝の形をとって語られるタキの半生、そして奉公先の平井家の暮らしとできごと。
あたりまえと世間体と男女の役割の違いと世の中の流れ。現代から当時を見るのではなく、当時を当時として見ること考えることを念押すように何度も意識させながら描いた人々は所々(~っていやね、)と嫌味もありながらも豊かで一生懸命だった。

黒木華の賢さと純朴さ、松たか子の品のよさと人のよさ、吉岡秀隆の男社会から浮世離れした精神性、といったものをはじめとして俳優陣から滲み出るものが良かった。その一方で笑っちゃいそうなくらいあからさまな演出もあって、画面に目を配らせるのが楽しい。
時子が時おり読み、そしてあのときの文机で横に置かれていた「風と共に去りぬ」は何を語るのだろう。


タキの孫である健史がノートを読み終えた後の現代パートがある種白けたものになって見えるのもその秘密を守りきったことが美しいからこそ。
苛立ちや不安を紙に書くことですっきりとした気持ちになるように、秘めたものを書き、そしてぽろぽろと涙を溢して自分自身を見つめる。ただ、「頭は良いけど想像力は貧困なんだねえ」とタキが健史にボヤいた言葉からもわかるように、そして気づかず棄てられたあの絵のように、きっと彼女の秘密はまだ守られている。タキも時子も、色褪せずいきいきと美しいままだ。


話は変わって、ポスタービジュアルを見たときからなんでこんなにオレンジ?という疑問がありまして。単行本からしっかりとしたオレンジ色が使われているようだけど、赤い屋根、黄みの強い白熱灯はあれどなんでだろうなと思っていたところ、オレンジ色には“親しみやすい”や、“家庭的”というイメージがあるそう。家庭を守るのは実は女中なんだよ、という最初の奉公先の主人の話とも一致するし、そういうことかな。
森崎

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