星降る夜にあの場所で

ヴァン・ゴッホ~最期の70日~の星降る夜にあの場所でのレビュー・感想・評価

4.0
星降る夜に押し入れ探検隊⑤

『愛の記念に』『悪魔の陽の下に』に共通して、本作品もやはり主人公がどこか精神が破綻している。
死ぬ間際のゴッホの日常を描いた作品で、アルトマンやミネリの作品のようなドラマチックさは全くありません。
だからなのか、逆に妙なリアル感があります。
ピアラという監督は、精神的に破綻していると認識されている者を立てることによって、一般的な正常者の己の保身、無理解、成り行き任せな無関心などを際立たせるのがとても上手い。
私にとって最もゴッホがどういう人間であったのかが伝わってきたのは本作品(3作品中)だったような気がします。

話は変わって、この作品を見つけて最初に想起したのが日本のゴッホと呼ばれる山下清画伯の事でした。
ここから先はレビューとは無関係なのであしからず。

山下清画伯のことを御存知ない方は、【山下清画像】で検索すれば白いランニングに半ズボン姿でリュックをしょったおじさんの画像が出てきます。
実物は『裸の大将放浪記』で画伯を演じた芦屋雁之助さんそのままだっと、母は語っています。


私の母は独身時代、東京駅の大丸デパートに勤務していました。
山下画伯がヨーロッパから帰国し、大丸で凱旋個展を開催した際、お世話係に任命され1週間付き添っていたときの小話をチョロっとしたいと思います。

画伯には、マネージャーのような役割をしていた背丈がチンチクリン(母曰く)なお兄さんがいて、このお兄さんというのが非常に意地が悪く口うるさい人だったので画伯はお兄さんを怖がっていたらしい。
『ちょっと出掛けて来るので清をお願いします』と、毎日2~3回外出する時があり、その時間だけは画伯は唯一ホッとしているように見えたとか。
昼食は毎日、レストラン街で好きな物を選んで貰いバックヤードの控え室で食べてもらうよう指示されていた。
画伯は洋食と和食(2つの店舗はレストラン街の一番端と端)の店舗を毎日何往復もして結局最後は決まってこの台詞…
画伯『か、か、かカツ丼(和食)とト、ト、トンカツ(洋食)、どっちが大きいかな?』
母『ん~トンカツの方が大きいと思いますよ』
画伯『じゃあ、トンカツで!それと、あ、あ、あんみつも下さい。』
一週間飽きることなく毎日同じメニューを食べ続けたとのこと。
画伯は非常に大食漢だったので、三日目以降はトンカツを2枚にして、あんみつも毎日3杯食べるので和食の店舗からうどんの丼を借りてきて特大あんみつを作って欲しいと母が頼んであげたらしい。
母は若い時から良く言えば極めて社交的でフレンドリーな人間、まぁ~要は厚かましくて馴れ馴れしいだけなのですが…
2日目にはもう画伯のことを【清】と呼びつけにしていたとのこと(二人っきりの時)。
ある日、昼食を食べながら
母『清はさぁ~好きな女の子いるの?』
画伯は頭を左右にふりながら、
『ぼ、ぼ、僕は女の人はき、き、嫌いです』
母『なんで?ヨーロッパに行ったらボインちゃんとかいっぱい居たでしょ?』
画伯『き、き、嫌いです!』
母『じゃぁ~私のことも嫌いなんだぁ~』
画伯『………あ、あ、浅野さん(母の旧姓)は、優しいのです、す、好きです。』
母『そうなんだ。良かった♪』
とまぁこんな調子で二人のときは画伯をからかって遊んでいたらしい。
またある日、何かの用事で画伯と2人でデパート内を案内していると、突然画伯の姿が見えなくなってしまった。
さぁ大変、顔面蒼白で探しまくっているとおもちゃ売り場の前に物凄い人だかりができていて、覗いてみると画伯が座り込んでいた。
母『清ダメじゃない。急にいなくなったら!』
画伯はジャンボジェット機を指さしてニコニコしながら、
『こ、こ、これに乗りました』
母『そうなんだぁ。すごいね~良かったね♪』
お兄さんが売り場に来るまで30分ほど、しゃがみ込んだままでずっと飛行機の中での出来事を母に話してくれてたそうです。
またまたある日、
母は色紙とペンを持って画伯に、
『ねぇねぇ清、私に何か書いてよ』
画伯『お、お、お兄さんに、お、お、怒られます…』
母『見つからなければ大丈夫だよ!』
画伯『……お、お、お兄さんにはな、な、内緒ですよ…』
母『内緒ね♪約束するよ』
と指切りげんまんし、実に効率的な書き順で三匹の魚を書いてくれたらしい。
画伯は書きながら、
『さ、さ、魚1匹、い、い、1万円です』
母『そうなんだ(笑)私にはただで書いてくれるの?』
画伯『あ、あ、あい。』※画伯は、いつも【はい】を【あい】と言っていたらしい。
母『清、優しいね』
画伯は、何度も何度もお兄さんには内緒ですよと繰り返していたとか。
母に確認したところ、
『そうそう、これこれ!引っ越す時に無くなっちゃったんだけどね…』
山下清 魚
で検索すると画像が出てきます。

筆記体のLの小文字を大きく三文字続けて書いて、口をチョンチョンチョン、目をチョンチョンチョン…という具合に書いて最後に胸びれ?をチョンチョンチョンで終わり☆

そして、お別れの日。
母は、画伯にプレゼントをした。
何をプレゼントしたかは察しがつきますよね♪
画伯は大喜びしましたが、すぐに真っ青な顔で、
『お、お、お兄さんに見つかったら、お、お、怒られます。』
母『こうやって、リュックの一番下に入れておいて、帰ったら急いで押し入れの奥に入れちゃえば大丈夫よ。』
画伯『あ、あ、あい。あ、あ、有難う御座います。』
母『清、また遊びにきなよ』
画伯『あ、あ、あい。』
最後は握手をして別れたらしい。
そして次の日から、母は画伯が残していったとある忘れ物に悩まされることになる。
母『い、い、いらっしゃいませ』
1ヵ月ほど治らなかったとさ(笑)
おあとがよろしいようで(*^。^*)