とーるさんし

A KITE~INTERNATIONALバージョン~のとーるさんしのレビュー・感想・評価

3.8
自由上昇と自由落下運動に身を任せた者だけが生き残る。冒頭のエレベーターの上昇、2番目の上りエスカレーターでの狙撃、この映画において人工的な力によって昇降する者は危険と隣り合わせである。

イヤリングの自由落下を許さなかった赤井はやがて映画の復讐対象となり抹殺され、晴れてラストでは持ち主によってイヤリングが漸く捨て去られる(落下)だろう。

イヤリングの落下→バスケットボールのドリブル→爆薬の河への捨て去り→音分利の階段下降動作といった編集による動作の変奏が象徴的。音不利は"階段を自力で降りた"ことにより、運命を決定づけてしまった。遡れば、音不利は狙撃シーンにおいてエスカレーターによって下降し、木造家屋での砂羽との語らいにおいても、階段によって上昇するカットが挿入されていた(ちなみに赤井も最期の場面において"階段を自力で降りている"。偶然の一致とは言えまい)。

では、砂羽はどうか。彼女の人工的な上昇運動は、画面外で巧妙に処理されていることに注目したい。エレベーターからの脱出は居合わせた同乗人のカット、先述の木造家屋での2階への移動は天井からの水滴のカットの挿入によってそれぞれ映されていない。トイレでのアクションシーンから続く下降は重力に身を任せた自由落下となり、上昇は爆風に身を任せた自由上昇となる(ちなみに、一連のシークエンスの直前に映し出されるポスターには、バスター・キートンの名)。

ここまで考えれば、砂羽がラストカットのあとに生存できたかは、語られずとも明らかだろう。
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