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夢と狂気の王国のtrickenのレビュー・感想・評価

夢と狂気の王国(2013年製作の映画)
4.4
NHK地上波で見られなかったタイプのぶっちゃけたジブリ終末期の様子が映し出される。これだけですでに価値がある。特に宮崎吾朗にも怒られていた川上P、高畑勲に8年翻弄されていた西村Pそれぞれの様子がカメラフレームの中に収まっているのがよかった。

かぐや姫が遅れる事前提で、まるで遅れないかのように堂々と記者会見や地方巡業に出る鈴木敏夫の老獪さにも恐れ入る。しかもかぐや姫がダメになりかけており風立ちぬ一本でやろうとしたところで鈴木と宮崎が庵野秀明を起用しようとする流れで、ふたり以外のスタッフが沈痛な横顔を揃えて俯いていたのが、いまだからこそだが、爆笑してしまった。確かに社運を賭けた映画の主人公を庵野秀明に委ねようとは最初は思えないよね……。

ヘソを曲げているのかほとんど映画に顔を見せなかった晩年の高畑勲は残念だが、宮崎駿は終末の城に棲まう隠居した老王のような箴言を連発する。幸せを目指すのが人生の目的なのか。飛行機だけでなくアニメも呪われた夢なのか。

ドキュメンタリー映画の長尺を活かして、三鷹の風景映像を惜しげなく詰め込んでいる良質なBGV映画でもある。レンタルで観たが、これは円盤でほしい。何度でも机の脇で再生して宮さんの愚痴を聞きたい。なんだかNHKと拾いどころの勘所が違って、快いなあ。何がどう違うのかうまく言えないんだけど。

ジブリはこの取材時期である2013年の後解散し、現役アニメータを抱える会社としては完全に終わってしまった。その爆弾がこのドキュメンタリー映画の中にはあちこちに仕掛けられていて、それを「知っている」かどうかで、このドキュメンタリー映画の局所局所をドラマティックだと感じられるかどうかの多寡が決まってくると思う。
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