本作はカール・ラガーフェルドに密着したドキュメンタリー映画です。
彼が「クロム・ハーツ」コレクターとして有名なのは知っていましたが、まず冒頭の出掛ける前のアクセサリー選びのシーンが圧巻でした。それはもうおびただしい数のリングやアクセサリーが丁寧にケースに入れられているとかではなく、無造作に皿上の入れ物にぎっしり入っており、その入れ物がいくつかあるわけです。これぞ真のコレクターですね。調べてみたらどうやら歴代のCHのリングはすべて保有しているそうです。
何のためか分かりませんが、予備のブレスレットをポーチに入れるのと同時におもむろに一皿まるごとリングを流し込んだのにはさすがに目を丸くしてしまいました。
その次に僅かながらに写し出されるのが引き出しいっぱいに敷き詰められた、「白くて長い何か」。最初は何かわからず、厚紙?かとも思いましたが、あれは『Dior homme』のハイネックのつけ襟ですね。後になって理解しました。
なんと素晴らしオープニングでしょうか。
世間が抱く彼のイメージと言えるであろう「じゃらじゃらリングのコーデ」と「ハイネックのつけ襟」という要素をプライベートの面まで掘り下げ、カール・ラガーフェルドという人物を浮き彫りにしているこの構図には感動しました。
観た人をここまで惹き付けるオープニングにはなかなか出会うことができないでしょう。
中身もカールのインタビュー中心に進むのですが、なかなか聞き入ってしまうものばかりです。特に彼の様々なエピソードは面白味もあった楽しめました。
たとえば昔から乗り物に乗るとお腹が痛くなるといって、今でも幼い頃に乳母に縫ってもらったクッションを抱えるとかオチャメ過ぎませんか。
あと彼の口から自分が同性愛者であることを語るシーンがあるのですが、彼の恋愛観がなんとも印象的です。それと改めてデザイナーには同性愛者が多いなと感じました。
個人的に仕事場に貼ってあった「トイレを汚すものはシャネルにあらず」というポスターがツボでした。でもたしかにトイレをキレイに使えない人はよろしくないですよね。
本作ではそのようなちょっぴり愉快なシーンを挟みながらも、一貫して表現しているのはカールの定住や懐古主義を嫌い常に新しいものを求め続ける姿勢です。彼は留まることを知らないのではないか、そのような印象すら受けます。
デザイナーのドキュメンタリー映画で言えば『シャネル シャネル』のように事実を短く簡潔にまとめるもの、『Dior & I 』のようにコレクションまでを収めたものもあれば、『アルマーニ』や本作のように現役の生きてるデザイナーの素顔を追ったもの、これら3つに分けることができると思います。そして個人的には圧倒的に後者が好きです。
長年第一線でファッション界を牽引し"生きる伝説"の異名を持つカール・ラガーフェルドですが、そんな彼も今年で御年82歳。絶対的な存在として長くクリエイティブ・ディレクターの座に君臨してきたものの、さすがに世代交代が噂されています。20年来の友人でもあるエディ・スリマンが仮に「サンローラン」を退任することになった場合、カールが「シャネル」の後継者としてエディを指名する可能性もあるとか。。。