Jeffrey

モスクワ・天使のいない夜のJeffreyのレビュー・感想・評価

モスクワ・天使のいない夜(1992年製作の映画)
3.0
「モスクワ・天使のいない夜」

〜最初に一言、頗る傑作である。ストリート・キッズを描いたロシア映画の最高峰と言っても良い。セミドキュメンタリー風に構築されており、アメリカン・ニュー・シネマの「イージー・ライダー」をオマージュしてるようなワンシーンがあるのだが、そこに流れるロシアのロック・バンド“モンゴル・シューダン”の音楽が流れた時、最高の瞬間が味わえる。これがまだVHSしかないだなんて…世も末〜

こちらYouTubeで解説しております。

https://youtu.be/gYR_KzoFFqY

冒頭、ここは地方都市サラトフ。20歳の青年はレスリングチャンピオンだった。負傷のため引退、マフィアのボディーガードとして働く。昔の仲間、命令、金を取り戻す、バイク、田舎町、裏切り、少女の存在、廃墟の地下室、セックス、拳銃。今、裏切りと約束のない街を舞台に、現代のロシアを描く…本作はセルゲイ・ボドロフが1992年に監督したロシア映画で、彼の作品の多くはアップリンクが配給しているのだが、奇跡的にソフト化されてる(廃盤)「コーカサスの虜」VHS止まりの大傑作「自由はパラダイス」を立て続けに観たのだが、どれも非常に良くて何故DVD化されてないのかが、不思議でまらない。てかアップリンク物は多い…。本作は世紀末のモスクワを舞台に、主人公アレクセイをはじめとすヤングの素人俳優を起用し、彼らの生活から実際にエピソードを引き出しながら、セミ・ドキュメンタリーという形式にもよらず、物語を構築している。脚本協力と製作には、監督の妻であり、写真家でもあったアメリカ人のキャロリン・キャバレーロが付いてるみたいだ。音楽は、ロシアのロック・バンド“モンゴル・シューダン”が担当していて素晴らしい。

さて、物語はボブは、地方都市サラトフに住む20歳。レスリングチャンピオンだったが、負傷のため引退し今はマフィアのボディーガードとして働いている。彼はボスから金を盗んだ昔の仲間ワレーラを探し出し、金を取り返すか、さもなければ殺すように命令を受けた。愛車のヴィンテージバイクを駆って田舎町を走り抜けてモスクワへとやってくるボブ。そこで彼はワレーラを見つけたが、ボブは彼を殺さず金を用意するようにもう1日だけ猶予を与える。その夜、ボブは廃墟の地下室に住む少女に出会い、セックスと裏切りのアンダーグラウンドワールドへと誘われる。しかし仕事のことを忘れてはいない。銃が必要だ。全てを片付けて帰途につくまで24時間しか残されていなかった…と簡単に説明するとこんな感じで、モスクワは裏切りの街、約束のない街、でも僕はそこで天使に会いたかったと言わんばかりの実際のストリートキッズを起用し、現在のモスクワをリアルに描いたロシアン・ニュー・シネマの傑作である。

いゃ〜、ボートのバイクに乗っている青年のシルエット描写のファースト・ショットはすごく雰囲気がよく出ている。そこから1人称になり、寒いロシアの冬が写し出される。モノローグで切ない音楽がかすかに聞こえる中、雪道を歩く青年の姿がなんても叙事詩的である。そして徐々に盛り上がる音楽と共にロングショットでバイクに乗る青年の冬化粧した風景を捉えるのもなんとも美しい。いや、序盤からなんとも引き込まれる切なさがある。そしてモスクワの夜更け、青年が警察官に身分証明書を提示しろと言われる。そしてヘルメットがなかったため、罰金を払わせられる羽目になる。カメラはそのまま道路を映し、上へと上るエレベーターの目線で外をとらえる。そしてセピア色の静止画でレスリング時代の若き日の栄光のスチルが数枚カット割りされる。

主人公の青年と少女がたわいもない会話をする中で、青年はイージーライダーの話をして、少女はマドンナが好きでマドンナ宛に手紙を書いたのを朗読したりする場面があるのだが、なんとも微笑ましい。そして水が滴り落ちるポツンポツンと言う音の中、2人が愛し合う神秘的な廃墟の地下室でのシーンは不思議なファンタジー映画を見ているかのような場面である。光のコントラストがすごく良い。実際にロシアロックが流れながらイージーライダーみたいにバイクが横1列に並んで道路を疾走するシーンがあった。てか、このロシアの曲がなんとも面白かった。ママ・アナーキーと繰り返し言う場面がなんとも耳に残る。これまたなんとも切ない終わり方である。ネタバレになるためあまり見えないけど、これもVHSしかないのか非常に残念。最後に余談だが、このストリーツキッズの女の子はあの後姿が発見されず、どこに行っているのか監督たちはわからないようだ。コーカサスの虜のインタビューでそう語っていた。
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