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インターステラーのRiRiのレビュー・感想・評価

インターステラー(2014年製作の映画)
4.8
愛は、時間も空間も超える

劇場で鑑賞した日、一日中ずっと心ここにあらずでした。リアリティを追求した圧倒的な映像美と、ハンスジマーの星間飛行をしているかのような壮大で切ない音楽、マシュー・マコノヒーの男泣きにやられてしまいました。

この物語のテーマは「重力」と「愛」。

理論物理学に基づいた脚本で難解な部分もありますが、核になるテーマは非常に情緒的です。重力が時間も空間も越えた存在であるように、愛もまた次元を超越する力であるというノーラン監督のメッセージ。

【次元を超える“愛”の力】

劇中、宇宙船の乗組員達が2つの星のどちらかを選ぶことを迫られた際、アメリアはマン博士がいる星でなく(自分の恋人の)エドマンズがいる星に行きたいと言います。私情を挟んでいるとクーパーに咎められ、こう訴えます。

「愛は私たちが発明したものじゃない。
観測可能で、強力で、特別な意味がある。私達は愛を理解していないだけ。
愛は、私達に感知できない高次元につながる唯一の手掛かりなのかも知れない。
未知の力であっても、信じて良いと思う。」

これはきっとノーラン監督が一番伝えたい本作のメッセージそのものなのでしょうね。
愛は、科学的に説明できない非合理的なものではなく、まだ人類が意識的に知覚できない高次元の証拠や痕跡なのではないか。愛こそが時空間を超越する未知の力なのかも知れない、と説いているのです。
(そして最終的に、エドマンズが見つけた星が唯一居住可能だったことがラストシーンでわかります。)

また、映画冒頭、マーフの部屋の“幽霊”についてクーパーは、ただの重力だと彼女に言い聞かせます。そしてその“重力”の暗号を読み解き秘密施設にたどり着いたクーパー達はどうやって座標を知ったのか問い詰められ、クーパーは「超常現象の類で非科学的なもの」と説明し、マーフは「重力よ」と一言。
しかし物語後半に、それは、マーフから父への愛、そしてクーパーから娘への愛ゆえに、5次元空間から自分自身によって送られてきた重力を利用した交信であったことが分かるのです。
重力が愛のメタファーになっているのがとてもお洒落。

家族を、娘の未来を思う一心で地球を飛び立ったクーパー自身もそうです。プランA(地球人類の生存の為のスペースコロニー建設)に望みをかけ、愛する人を救えると信じたからこその辛く悲しい決断でした。そしてその行動が人類を救ったのです。
そして父の愛を信じたマーフも、暗号で送られてきた特異点のデータを使い、ブランド教授が成し得なかった重力問題の解を見つけプランAを達成するという、なんとも美しい帰結でした。

【時間への反抗】

映画の中では、ブランド教授が好きなディラン・トマスの死に抗う詩が朗読され、その後も繰り返し引用されます。

"Do not go gentle into that good night.
Old age should burn and rave at close of day;
Rage, rage against the dying of the light."
「穏やかな夜に身を任せるな
老いても怒りを燃やせ 終わりゆく日に
怒れ、怒れ 消えゆく光に」

そして教授は「死よりも“時間”を恐れている」とマーフに打ち明けます。 

これは「時間」という無慈悲な相手に対して、抗う人類の詩。 
人間の命は短く、言葉は稲妻のように届かず、時間は愛する者達を非情に引き裂く。 しかし人間は、時間という冷酷な力に縛られながらも、愛によってその制約を超えることができるという意味なのだと私は受け止めました。

そう、クーパーが自分の命を投げ打って娘の未来を救おうとしたように。 マーフが父のメッセージを信じて地球を救おうとしたように。

【アインシュタインの手紙】

時間を超える力は、数式ではなく、想い。
空間を越える乗り物は、宇宙船ではなく、祈りかもしれない。

この物語のメッセージは、かのアインシュタインが娘リーゼルに宛てて書いた手紙とされる文章と不思議なほど響き合います。

「宇宙を支配する最も強力な力、それは“愛”だ。
愛は光であり、重力であり、力であり、そして神そのものである。
愛は神であり、神は愛だ。
この力はあらゆるものを説明し、生命に意味を与える。
これこそが私たちがあまりにも長く無視してきた変数だ。 
私たちがこの宇宙的エネルギーを与えかつ受け取ることを学ぶとき、私たちは愛がすべてに打ち勝ち、愛には何もかもすべてを超越する能力があることを確信しているだろう。
なぜなら愛こそが生命の神髄だからだ。  」

学生時代この手紙の文章を読んだ時、言い得ぬ感動に襲われました。手紙の真偽については諸説ありますが、私はもはや手紙が本物かどうかは気にしていません。

神や愛や信念は、科学と相反するようで、全て穏やかに共存しています。私達が到達する、最新科学と人類の叡智を以てしてもなお説明できない何か。それが「愛」なのではないかと、ノーラン監督は伝えたかったのかも知れません。
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